遊びを仕事する

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生きる力…紙おむつの功罪



 「絵本で子育て」センター発行「絵本講師・養成講座テキスト第3巻」の中に「紙おむつの功罪」というページがあります。
 そこに、紙おむつの悪影響について、次のような四つのことが書かれています。1・おむつ外れが遅れるのではないか。2・親と子のゆったりとしたスキンシップがなくなる。3・泣くことが少なくなるため赤ちゃんの感情が育ちにくく、言葉も少なく無表情になってしまう。4・親にとって、赤ちゃんの排泄物を見ることは子どもの健康状態を知る大切な手がかりであったが、それがなくなろうとしている。
 そして、「紙おむつの普及によって、親子の大切なコミュニケーションが消えようとしています」とあります。
 その重要事項のうち私は、「おむつ外れが遅れるのではないか」「子どもの発育が遅れるのではないか」に注目しました。
 いくつかの保育園で「おむつが外れるのは何歳ぐらいか」と聞いてみたところ、「2〜3歳」との回答が多かったのですが、ほとんどの園で一様に「昔と違って、3〜4歳になっても取れない子もいます。けれど、いずれ取れますから、無理に急がないようにしています」ということが聞かれました。
 横浜市内の保育園では、「園では全く紙おむつは使わず、保護者にもできる限り布おむつを使うようにお願いしていて、一人一人の発育状況をよく見ながら、全員2歳でおむつが取れるよう努力しています」という例外的なところもありました。その理由は、紙おむつの悪影響をなくし、おむつが取れてからは、走ったり、でんぐり返ったりして身につける運動能力をしっかりと発達させたいとの思いからのようでした。
 毎年10月10日、文部科学省から子どもの運動能力についての調査結果が発表されるのですが、今年も5年前の測定値に比べて大きく下がっていました。今年は成人についても発表されたのですが、中高年者(40〜79歳)は子どもと反対に運動能力が大幅にアップしています。
 大人は、「生きていても寝たきりでは悲しい」「生きることは健康であること」として、健康に時間とお金をかけているのです。その一方、児童公園は廃止され、空き地はマンションやショッピングセンターとなり、子どものための遊びの空間は奪われ続けています。あたかも野生動物や野鳥が、そのすみかである原野や干潟を奪われていくのと同じようにです。
 「健全な精神(生きる力があること)は健全な身体に宿る」ということはだれでも知っています。また、子どもの体力低下は、塾通い、テレビやゲームに時間を取られすぎることに直接的原因があることも知っています。乳幼児のときから運動をすることが少なく、光や風のある屋外で遊ぶこともなく育つことにより、運動能力が発達せず、スポーツ嫌いに育てば、運動能力の低下は当然なのです。
 このように考えれば、「おむつの功罪」とは、運動能力発達の問題であり、行き着くところは「生きる力」の問題でもあるのです。
 参考までに、スウェーデンは第2次世界大戦前の1940年、綿花の輸入ができなくなり、紙おむつを世界で最初につくった国ですが、今は紙おむつは使われていないようです。そして、おむつとおむつカバーを一体化した、いろいろなおむつが使われています。幼児の水泳用に「スイムパンツ」、おむつ卒業時に自分でパンツが取れるよう工夫された「トレーニングパンツ」のようなものまで使われています。この国では環境に配慮した上で、幼児の運動能力増進に役立つものが求められ、いいものがつくられれば、費用と効果を総合的に考えて、使われていくようです。

「絵本フォーラム」37号・2004.11.10


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