絵本のちから 過本の可能性
★特別編★
「絵本フォーラム」27号・2003.03.10

鈴木 健二(すずきけんじ)氏 略歴

東京都出身。NHK入局後、テレビの創生期とともに過ごし、数々のテレビ番組に関わる。
退職後、熊本県立劇場館長を経て、現在、青森県文化アドバイザー・青森県立図書館館長として文化振興に携わっている。
読み聞かせ運動を青森から始めよう
鈴木健二(青森県文化アドバイザー・青森県立図書館館長)
 青森県立図書館を預って5年目になりますが、雪の中を小学生や幼稚園保育園の子が、色とりどりの帽子を被り、コートを着せられて図書館へ来る姿は、まるでお人形さんが歩いているようで、とても可愛い感じがします。
 私は青森へ来た最初の年に、今の子供達がどのような本を読むのかと、館内で見て廻って驚きました。中学生高校生の大部分が学校の勉強の参考書なのです。私がこの年代だったのは、50年前の戦中戦後でしたが、その時読んだのは、教養になる本ばかりでした。
 そこで私は前々から読書は頭のためだけではなく、良い人になるためにするのだと信じていましたので、もっと低年齢の子達から少くとも本や図書館があるんだよと知ってもらうことから始めようと考えました。
 そこで県下67市町村の幼稚園や保育園へ朝9時に行って、紙芝居を見せて、そのあと同じ町や村の中の他の園にも廻ってお話をし、夜はおとなのために「青森の文学の朗読と講演の会」を2時間半ひとりでやりました。
 全部の市町村を巡回するのに9か月かかりましたが、その結果、図書館を利用する人が前の年より5万人も増えました。
 この時に知ったのは、2歳の子供達が3歳の子達と少し時間はかかりますが同じくらいの理解力があることでした。私は児童心理学を研究している先生達に、今までの2歳児3歳児の教育を見直して下さいと頼みました。おとなの勝手な眼で子供達の能力を判断していたところがたくさんあったからです。
 残念なことに、5万人増えても青森県の市町村立図書館の納書は、長い間全国の最低レベルにあるという事実も私は知りました。
 そこでまた43の公民館図書室を調べて廻りましたが、そこで気がついたのは、図書館とか本とか以前に、教育そのものについての県民の意識が非常に薄いということでした。
 その一方、ボランティアで子供達に読み聞かせをしているグループもあるのがわかりましたが、それを役場や地域の人が全く知らなくて、次々に消えて行くのを聞きました。
 いま、読み聞かせがこれまで想像されていた以上に、知育徳育の大きな進歩に役立つという研究結果が、国の内外で相次いで発表されています。私も体験しました。
 これを推進することから始めようと決心し、知事とも文化アドバイザーとして相談し、平成15年4月から、読み聞かせを県民総ぐるみの恒久的な運動にすることにしました。
 県庁内にセンターを置きます。そして、私は昔っこが話せますと一人でもいいし、家族で、友達で、隣近所で、町内村内で、職場で、PTAで数人のグループを作って練習し、このセンターへ登録して戴きます。
 そして、学校や福祉施設、教育的集会などからセンターへ派遣要請が来ると、センターが調整して、グループに行って戴く仕組みです。全国で初めての運動ですが、私もこまめにまたもや県下全市町村を歩く積もりでいます。

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