絵本のちから 過本の可能性
現場からの報告…6
「絵本フォーラム」32号・2004.01.10
 今回は、「母親になって気づいた絵本の力を、もっと多くの人に知ってもらいたい」とさまざまな活動をされている関岡香さん(毎日放送アナウンサー)をご紹介します。
仕事としてだけでなく、一人の母親としての願いが感じられるすてきなお話に、耳を傾けてみてください。
生きた言葉のシャワーをいっぱい浴びさせて
関岡 香(毎日放送アナウンサー)

お母さんになって始めた読み聞かせ

 「お母さん、これ読んで!」目を輝かせて、私の前に絵本を差し出す娘。『あいうえおえほん』(とだこうしろう・ひろし/作・絵、戸田デザイン研究室)は、長女が赤ちゃんのころ、大好きだった絵本です。片方のページは大きな「足」の絵、隣のページには、その絵の言葉の頭文字「あ」と、書き順が大きく描かれたシンプルな絵本です。毎日この絵本を見ながら、「あしはどれ?お母さんの足は大きいね」と比べっこしたり、「こちょこちょ!」と足の裏をこそばしたり。年齢が上がるごとに読み方も深まり、しりとりやお話をつくったこともありました。ぼろぼろになるまで、この絵本を開いたものです。
 フルタイムで働く私にとって、このひとときは親子が向き合える貴重な時間でした。私が親として心を込めてできることは、絵本の読み聞かせではないかと思いつき、ずっと続けてきました。子どもを膝に乗せ、1冊の絵本を一緒にのぞいてみる。1ページ目を開くときは、お互い「ワクワク」している心臓の鼓動が伝わってきます。読み進めると、娘は、笑ったり、泣いたり、敏感に反応します。同じ本なのに、年齢によって、その反応するところが変化していくのです。私は、娘の成長を実感すると同時に、「私も子どものころ、こんなふうに感動していたのだ」と、子どものころの心を思い出しました。
 子どもに読んでいるのに、まるで自分のために読んでいるかのよう。すっと心が癒されて、無垢な気持ちになり、眠っていた五感が呼び起こされて、絵本の世界に自分も吸い寄せられるのがわかるのです。すると、楽しいシーン、悲しいシーンを読むとき、押しつけではなく、自然に思いが響きとなって声に現れてくるのです。共感することが楽しくなり、優しい、豊かな心で子どもと接している自分にも気づきました。絵本には、大人と子どもの心をつなぐ力や、心を解放してくれる力があるのです。
 今は娘も4年生ですが、「お母さん、これ読もう!」と、いまだに誘ってきます。でも、昔と違うのは、「私が読むから、聞いていてよ」と、娘が私に絵本を読んで聞かせてくれるのです。アクセントはぐちゃぐちゃ。時に、意味の切れ目が違ったりもしますが、その年齢なりの思いがちゃんと伝わってくるのです。その娘の声を聞きながら、私がスヤスヤ。心地よい時間です。娘は、少なくとも、声に出して読む楽しさは知ってくれたようです。


そして、今の私にできること

 幸いにして、仕事の中でも、子どもたちに朗読するラジオ番組と朗読イベントに出会いました。ラジオ番組は、日曜朝6時30分から放送の「おはなしの扉」で、アナウンサーが絵本や童話1、2作品を朗読しています。今までに約400作品を朗読しました。また、リスナーのリクエストに応えて、アナウンサーが無償で出前する「おでかけ朗読」も行い、保育園や小学校、文庫、養護施設など、6年間で33カ所に伺いました。初めて会っても、すぐに心開いて親しげに接してくれる子どもたちの様子を見て、ここでも絵本の力を実感しています。
 朗読イベント「おはなし夢ひろば」は、アナウンサーが絵本の内容を一切変えず、ストレートに朗読。そこに最小限の照明と音楽を使って、想像力がかき立てられるように演出しています。作品は毎回、親子で楽しめるものを、スタッフとともに頭を痛めながら選んでいます。会場では、朗読した絵本の販売とともに、作者からのメッセージや作品紹介などのパネル展示を行っています。うれしいことに、乳幼児でも静かに聞き入ってくれます。これまでに、「耳から聞いて想像する大切さを実感しました」「絵本の楽しさを親子で味わえました」など、多くの感想をいただき、大人の方々にも好評です。入場料や当日のチャリティ金は、毎日新聞の社会福祉事業団に寄託しています。このイベントが、読書への入り口として子どもたちに、また、大人たちにも絵本のよさを発見していただける場となればうれしいことです。
 このような仕事をしていると、お母さん方に、「うまく読むにはどうしたらよいですか」とよく聞かれます。私は、「自分のために、声を出して読んでみてください。どんな気持ちがしましたか。楽しかった?怖かった? ワクワクした?その感動を持って、子どもたちに読み聞かせてあげてください。そうすれば、子どもも楽しんでくれますよ」と答えます。読み手がおもしろいと思わなくては、相手には伝わりません。心で本を見ないと、感動もなく、単に字を読んでいるにすぎないからです。だから、まず、お母さんが絵本を楽しんでください。楽しんでいるお母さんを見たら、子どもはもっと喜ぶはずです。
 映像やパソコン、ゲームなど、対話のない環境が多い中で育つ子どもたちには、心に響くような体験がますます必要です。どうか、思いが込められた、生きた言葉のシャワーをいっぱい浴びせてあげてください。そうすれば、きっと、人が本来持つ情緒や心が育っていくはずです。それを信じて、私は、この活動を続けていきます。 (せきおか かおり)

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