私の絵本体験記

「絵本フォーラム」104号(2016年01.10)より

絵本を通して子どもの自分を生き直す

平松 祐美子(東京都三鷹市)

  娘が生後2ヶ月を過ぎた頃、『やさいさん』を読み聞かせていると、「すっぽーん」とやさい絵本を通して子どもの自分を生き直すが現れるところで突然にこりと笑顔になりました。にんじんやごぼうのところは笑うのに、さといもでは無表情。赤ちゃんにも好みがあるんだ!と初めて実感しました。読み聞かせを続けるうち、私自身の記憶も次々と鮮明に蘇ってきました。私の思い出の絵本は、『ブルーベリーもりでのプッテのぼうけん』。色や絵の細部、図書館の絵本コーナーの絨毯の感触、ブルーベリーやこけもものおいしそうなこと。食べたくて母にせがみ、ブルーベリーのジャムを買ってもらったこと、その甘さ。こんなにはっきり記憶に残っていたのかと驚きました。子育てを通して、子どもの自分を生き直していると感じます。その中で気付き、幼い自分が癒される体験は、なかなか貴重なものです。絵本によってもたらされた感覚を頼りにすることで、よりスムーズに子どもの自分と出会えるのではないか、と思います。  

 娘も今は1歳6ヶ月。朝起きるとまっさきにお気に入りの絵本をもってきます。私の膝に座り、物語が始まるのを待つ期待感と緊張感が一瞬の静けさを生みます。そして読み終わると「もう一回」と指をたてて何度も何度も読ませるのです。これらはすべて、今だけの特別な時間なのですね。それを娘の温もりとともに日々実感しながら大切にしていきたいと感じています。自分自身がそうだったように、いずれ親元から離れていくこの子とたくさんの思い出を絵本の中に忍ばせていきたいと願っています。
(ひらまつ・ゆみこ)


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