私の絵本体験記

「絵本フォーラム」107号(2016年07.10)より

「心に栄養を届けたい」

増田 友野(東京都北区)

心に栄養を届けたい  じいじ(68歳)が孫(2歳)に『おおきなかぶ』を読んでいる。かなりでたらめに読んでいる。「これはおおきいですね~」「ねこもきましたとさ~」絵本に書かれていない文章が沢山出てくる。しかも「うんとこしょ どっこいしょ」はかなりの熱演である。……ん?? このでたらめな読み方、なんだか聞いたことがあるぞ? それもそのはず、じいじは私の父である。そして孫は私の息子。さらに、読んでいる『おおきなかぶ』は実家から我が家に持ってきたもの。もしかしたら、父の膝に乗っているのは小さいころの私なのかもしれない。絵本が読み継がれていく光景を目の当たりにし、その嬉しさに鳥肌が立つ思いだった。

 父は独自の言葉をたくさん織り交ぜながらも、物語の真実を伝えてくれている。その証拠に、息子は大笑いしながら、しかし真剣に《うんとこしょ どっこいしょ》と聞き入っている。かぶが抜けなかったときは本当に残念そうに困った顔をし、《やっと、かぶは ぬけました。》では小躍りしながら飛び跳ねる。まさに絵本の中に飛び込んで遊んでいるのだ。

 目に見えない真実が伝わり、心が動いている。そして、そこには一緒に喜んだり残念がったりしてくれる大人の存在がある。

  約30年前、私はこのようにして父から心の栄養をもらっていたのだ。改めて知ることができた。『おおきなかぶ』がなかったら、思いもしなかったことかもしれない。そしてその事実を知り、自分も父がしてくれたのと同じように、息子の心に栄養を届けたいと思った。やはり絵本は「とてつもない」力を持っている。
(ますだ・ともの)


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