えほん育児日記
〜絵本フォーラム第108号(2016年09.10)より〜

「伝えていきたい絵本の力」

 

香川 美香(絵本講師)

 

香川 美香 伝えていきたい絵本の力

 自慢できるほど、娘には絵本を読んできませんでした。娘を保育園にあずけて働いていた頃は、「絵本で子育て」の本当の力に気づいていなかったのです。もっと早くこの講座を知っていたら、と心の底から思います。だからこそ、私は伝えたい。まだ知らない人に伝えたいと思うのです。

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 娘は幸い、当事同居していた私の母や妹に、たくさんの絵本を読んでもらっていました。私が子どもの頃から自宅には、福音館書店の「こどものとも」シリーズなどの絵本があって、環境は良かったのだと思います。また、母親の私は、絵本は読まなくとも、毎晩必ず寝る前に「おはなしの時間」をつくっていました。娘と一緒に布団に入り、電気も消して、私の素話のはじまりです。そしてそれはほぼ毎晩、きまって「ももたろう」などの昔話でした。「昔々あるところに……」と始まると娘は私の腕をつかんできます。そして必ず、私の二の腕をもみながら聞き、眠りに入ってゆくのです。それは毎晩、何年も繰り返されました。きっと心休まる、安心できる大切な時間だったのだと思います。

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 一昨年の九月、NHKのEテレ・ハートネットTVという番組で、「二十代の自殺がとまらない」というタイトルの、とてもショッキングな放送がありました。今、日本での二十代の死因の半数が自殺で、これは他の先進国に類をみない状況だそうです。理由は人間関係やいじめ、親の期待等、さまざまでしたが、一位は「生きる意味がわからない」、そして二位が「自己肯定感の低下」でした。

 この「自己肯定感」というキーワードもいつからこんなに目にするようになったのかと思いますし、同時にいったい日本では、自分で自分を認める気持ち「健全な自己愛」が、どうしてこれまでに育ちにくいのかを考えさせられました。やはり、赤ちゃんの頃からたくさん抱きしめ、「かけがえのない存在だよ」、「大好きだよ」、と我が子に言えないお母さんが増えているという話は現実なのでしょうか? そして、子どもを見ずに、スマホの画面上の我が子に夢中になっているお母さんは、この先ますます増えていくのでしょうか?

 ママ見て、ほら見て、こっち向いて……。四六時中はお母さんだってもちろん「しんどい」です。けれど、絵本があれば10分、10分あれば、それを読むという行為によって、ただの絵本がそれを解決する希望に転じるはずです。

 そうでした。私なんかに「絵本で子育て」を語る資格なんてあるんだろうか……。もうそんなことは言ってはおれないと思った出来事でした。

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 今、国内だけでなくて、世界に目をむけても、不安になるようなことばかり起きています。けれど、一人一人の意識が「不安や恐れ」を選択するか、「希望」を選択するかで、将来は必ず変わってくると思うのです。それはわかりやすい変化ではありません。ですからくじけそうにもなります。でもあきらめたくはありません。

  絵本を読むこと、絵本講座をすることも全く同じです。すぐに目に見えてわかりやすい「良い結果」が得られるわけではありません。それでもあきらめないで、続けていく。その先に、小さくても希望があると信じているからです。

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 さて、母親から自慢できるほど絵本を読んでもらえなかった我が娘ですが、私の思いや活動には関心をもってくれました。そして、この四月から、第13期生として「絵本講・師養成講座」を受講し、「絵本で子育て」を学びはじめました。

 今はまだ大学生で、進路も決まってはいませんが、どのような形であれ、たとえ小さな小さな羽ばたきだとしても、その一端を担ってくれるようになったとしたら、私はとても嬉しいです。
(かがわ・みか)

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