えほん育児日記
〜絵本フォーラム第110号(2017年01.10)より〜

「幸せな出会い」

 

中村 史(絵本講師)

中村 史 芦屋6期

 絵本講師となって今年で7年になります。ゆっくりしたペースで講座をしてきました。振り返れば、さまざまな場所で絵本を通じた出会いがありました。子どもの頃から絵本が大好きと嬉しそうに話してくれたお母さんや、最後まで残って持参した絵本をじっくり読んで楽しんでくれた親子など、その後お会いする機会がなくても、なつかしい仲間のように思います。絵本を読んでもらうことは、子どもが大人に大切にされることだと、その姿が証明してくれます。

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 子どもの日常を満たすのは、ささやかなことでいいのだと思います。毎日通る道に日々発見があったり、同じ会話の繰り返しに満足したり。それは、そのまま絵本に置き換えることができます。読んでもらう喜びと絵本そのものから得る喜びは、子どもの心いっぱいにあふれ、まわりの大人をも幸せにします。人生の最初の時期に出会うものが、子どもの価値観の土台を作るなら、やはり美しく尊いものに触れさせてあげたいと思います。絵本には、それがあります。

 今、絵本は子どものものという考えは過去のものとなり、年齢に関係なく絵本を楽しむ人が増えてきました。それは幸せなことだと思います。一方、実際に子どもたちと絵本を読んでいると、絵本から本へと興味が遷っていくのは、やはり自然なことだとも感じます。

  絵本講座では、主に絵本を紹介しますが、その次の楽しみとして、お話の本や幼年童話を持っていくこともあります。そうしていると、幼稚園や幼児の子育てグループ主催の絵本講座でも、上のお子さんの読書について、どうしたら自分で本を読むようになるのか、どんな本をすすめたらよいかなどの質問をいただくようになりました。

 また、小学校での講座では、本が読める子になるために親にできることを教えて欲しいという要望が必ずあがります。絵本同様、目的のために読むのではなく、読むことそのものを楽しんでと前置きしたうえで、ブックトークをすることもあります。子どもと本の出会いの手助けができることは、児童文学を宝物として育った私にとってこの上ない喜びです。

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 絵本であれ児童書であれ、子どもの文学にも人生はきちんと書かれています。読んでいれば、子どもたちは、大人になるということは、子ども時代と切り離された別世界へ行くのではなく、今自分が歩いている道が途切れず続いていくことだと気づくでしょう。今の子どもたちは、一歩一歩歩いていくかわりに、階段を段飛ばしに上がるような無茶な追い立てられ方をしています。子どもは、子ども時代をじゅうぶんに遊びきってこそ、本当の意味で大人になることができます。子どもにとっての遊びは、勉強や習い事の息抜きではありません。遊びとは、子どもの生活そのものであり、遊びから生まれる喜びや感動が子どもの心を揺さぶり、瞳を生き生きと輝かせます。そんな子ども時代を守ることが、今、私たちに課せられていることではないでしょうか。

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 私は、子どもたちが大人になった時に「子ども時代に本があってよかった」と心から思えるようにと願って活動しています。絵本が本当に嫌いな子どもはいないとよくいわれますが、ほうっておいては子どもは絵本好きにはなりません。手の届くところに絵本があって、興味をもったときに読んでくれる大人がいて、初めて絵本のおもしろさに出会うことができます。子どもたちは、大人になって初めて「本と子どものかけ橋」となっていた大人の存在に思い至るのではないかと思います。そして、自分がまわりの大人たちに大切にされていたことを改めて知った彼らが、私たちと同じ役割を担う大人になってくれたらと、楽しく思い描くのです。
(なかむら・ふみ)

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