絵本のちから 過本の可能性

「絵本フォーラム」111号

2017.03.10

『絵本講師・養成講座』を受講して


子どもたちが健やかに育つことを願って

曲里 由喜子(芦屋13期)

まがり ゆきこ  私は永年小学校に勤務し、学校図書館教育に関する仕事に携わり、子どもたちと本を通して歩んできました。10数年前から「絵本フォーラム」を定期購読しており、数年前に「絵本講師・養成講座」の記事を目にしました。仕事がら子どもたちによく読み聞かせをしていましたが、自己流そのものでしたから退職したら、基本的なことから学びたいと強く思うようになりました。そして、今回13期生として受講を決意しました。

  毎回の講座は、著名な先生方のご講演が楽しみで時間の過ぎることを忘れるぐらい深い学びでした。特に第一回目の講座が、101歳になられたむのたけじ先生のご講演で、終始パワーあふれる迫力に圧倒され聞き入ってしまいました。そしてこれから始まる講座に対して頑張っていこうと奮い立たせてくださいました。

 今も先生の優しい声が聞こえてくるようで背筋がピンとなります。先生の訃報を知ったときは驚きと悲しさでいっぱいになりましたが、第3回目の講座で会場に先生のコーナーが設けられていたことに感動しました。この「絵本講師・養成講座」は大切なことを大切に感じさせてくれる講座なんだと改めて思わせていただきました。命の尊厳と平和を貫いてこられた先生のお話をお聞きできたことは宝物になりました。

 そして、私が一番お会いしたかったのがアーサー・ビナード氏です。数年前に『くうきのかお』(福音館書店)という絵本に出合ってから、なんて不思議な美しい表現なんだろうと心の奥にひっかかっていました。その願いが叶い、お話が聞けたことに幸せな気持ちでいっぱいになりました。

 私は、絵本を通して言葉の大切さを伝えることに力を注いできたつもりでいましたが、こんなに日本語を分析して使っていただろうかと頭を打たれた気持ちになりました。本気で、絵本を通して言葉を伝えていきたいと思いました。

 もう一人は、藤井勇市先生です。低いトーンで心にズシーンとくる話し方に毎回心を奪われていました。今の社会の動きに対して見失ってはいけないことをしっかりご指導いただきました。頭ではわかっていたつもりでも深く考えてこなかった今までの私自身の生き方に対し警笛をならしてくださり感謝しています。

 第3編の講座で藤井先生は「子どもに絵本を届ける大人の心構え」と題してお話くださいました。

 家庭は子どもが出会う最初の社会であり子どもたちが生きていく上で最も大きな支えとなるのが親と子の信頼関係であり、愛情によって子どもの心は豊かに育っていきます。心豊かに育っていれば人生を見失うことはありません。今の世の中の家庭の実態は、子育ての原点を見失い、過度の重圧を感じてしまっている家庭が多くなっていること。そのことに危機感を感じています。日本の社会全体をより良いものにするためにも「読み聞かせ」を浸透させ伝えていかないといけない。「読み聞かせ」は演じることではない、寄り添うことである。先生のこの言葉はしっかり私の心に響いて、子育てにおける原点であると深く感銘を受けました。

 毎回の講義も、温かい雰囲気の中で真摯にご指導くださり、今までの自分の考え方に対して納得できることが多く、自信を持ってお母さん方や子どもたちに向き合える気持ちにもなりました。 遠方各地から受講された方々と「絵本」を介して語り合えたことも貴重な学びでもありました。これからは自分の置かれた場で、現代社会がどのような状況になっているかを把握できる力を養い、この講座で学んだことを支えに、子どもたちが健やかに育っていってくれることを願い、微力ながら伝えていきたいと思います。受講して本当によかったです。ありがとうございました。
(まがり・ゆきこ)


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