遠い世界への窓

新連載

遠い世界への窓

第2回の絵本

『ラマダンのお月さま』

ラマダンのお月さま 暗い夜空をじっと見上げています。真っ白な光を放つ月のかけらが、細い針のように、少しずつ少しずつ見えてきます。太陰暦の一ヶ月のはじまり、そして、「断食月」とも呼ばれる、「ラマダン月」のはじまりです。今でもこんなふうに夜空に目をこらして、世界中のあちらこちらの国で「ラマダン、スタート!」が宣言されるのは、なかなか素敵だと思いませんか?  

 今年のラマダン月は、5月27日から6月25日の一ヶ月。「遠い世界への窓」第二回は、絵本『ラマダンのお月さま』をご紹介します。

 この絵本をはじめて見たときに驚いたのが、表紙の色鮮やかなペルシアン・ブルー。そして、ちょっぴりのぞく銀紙の月、それから、主人公の女の子のお洋服とタイトルロゴの愛らしいピンク。コラージュが多用された、色とりどりのページをめくってからも、「かわいい~!」の連続でした。

「断食」というと、なんだか恐ろしげな苦行のようですが、ラマダン月は、イスラーム教において、キリスト教のクリスマスにも匹敵する、大イベント。日の出から日没までは、飲み食いを控えますが、日没のあとは何を食べようか(胃にやさしいものでないと!)、誰をお招きしようか、夜のあいだに、そして、日の出前には何を食べようか(腹もちのいいものでないと!)・・・と、台所は大いそがし。ラマダン月の直前は、新聞の経済紙面でも、今年はお米はキロあたりいくら、お肉はいくら・・・といった記事が並びます。日本の年末のスーパーで、鶏肉やかまぼこが急に高くなってるのと事情はおなじ。

 名古屋にあるモスクの子ども会を訪れて、この絵本の読み聞かせをさせてもらったことがありました。

 「ラマダン好きな人~?」と聞くと、「はーい!!」といっせいに手を挙げる子どもたち。まだ断食はできないけれど、お料理やお菓子作りをお手伝いしたり、オーナメントを作ったり、友だちやお客さまと一緒に食卓を囲んだりと、楽しみがいっぱいあるからです。昨年UAE(アラブ首長国連邦)で出版された子供向けのラマダン・オーナメント作りの絵本を見て、くすりと笑ってしまいました。なぜって、折り紙の「ちょうちん」とか「くさり」とか、日本の七夕飾りと同じものが、いくつもあるんですもの!

 『ラマダンのお月さま』では、そんな楽しみや「わくわく」が、主人公の女の子の目から描かれます。「じんわり ひろがる/ ほっこり あじわう/ おいしいって しあわせだ!」というご飯の時間。そして、「もっと わかちあおう/ もっと いのろう/ もっと はたらこう/ もっと だれかのために」と願いながら、大切に大切に過ごす時間。

 この絵本は、「異文化を学ぶ/伝える」ということに関しても、とても大きなことを教えてくれます。わたしたち、とくに大人は、新しいものを学ぶ時、まずは情報を取りそろえることから始めますよね。たとえば、日本のお盆のことを説明するとしたら、「日本古来の祖霊信仰と仏教のウラボンエが融合したもの」で、迎え火と送り火があって、八月十五日ごろに行う地域も多くて・・・とか。

 でも、子どものころの私にとっての「お盆」の思い出は、もっと別のものだった。夏のおわりの、むせ返るような草いきれと、お線香の匂い。「ご先祖さまがおまえの背中におんぶしてるんだよ」という祖父の声。おじちゃん・おばちゃんたちからもらうおみやげや、いとこたちとする、かくれんぼや花火――そんなものが、いっぱい、いっぱいつまっていました。

 どうしてラマダン月に「断食」なんて、するんだろう。いつからそんな決まりになったんだろう。もしも知りたくなったら、いつか調べてみてください。でも、ラマダン月を断食して過ごす文化と暮らしのなかで感じる「わくわく」とか「気持ち」という、私たち人間にとっていちばん大切で、実はいちばん「現実的」なもんだいを、この絵本は伝えてくれています。

 ハッピー・ラマダン! 

(まえだ・きみえ)



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