遠い世界への窓

東京大学教養学部非常勤講師
絵本翻訳者

新連載

遠い世界への窓

第3回の絵本

『ぺろぺろキャンディー』

ぺろぺろキャンディー
ルクサナ・カーン/文
ソフィー・プラッコール/絵
もりうちすみこ/訳 
さ・え・ら書房

 

 鮮やかで柔らかなイエローの表紙。前髪を「パッチン」でとめた、大きな白い水玉のブルーのシャツを着た女の子。そして、赤いタイトル・ロゴと、顔の半分ほどもある大きくて真っ赤なぺろぺろキャンディー。夏色トリコロールが魅力的な絵本は、その名も『ぺろぺろキャンディー』です。

 この「パッチン」の女の子ルビーナが、友だちの「おたんじょうかい」によばれるところから、おはなしが始まります。「おたんじょうかい」って、子どもには何とも魅力的ですよね。いつもとはちがう、素敵なことや美味しいものがいっぱいありそう! そんなご招待に、ルビーナのママは、なんと妹のサナも連れていくようにと命じます。

  そんなのサイアクでしょう? おたんじょうパーティーって、ちょっぴり自分を大人に見せたいじゃない? 何より思いっきり楽しみたいわよね。しかも、サナはまだ半分赤ちゃんのわがままいっぱいの女の子。そんな子を連れていけだなんて、いくらなんでも理不尽すぎる!!

  「サナは つれていけない! だって、よばれていないもの」 「よばれてないと、なぜ いっちゃいけないの?(中略)それは、おかしいわ」と、おかあさん。 「ここじゃ、みんなそうなのよ!」

  ルビーナはとうとう、「自分だけが小さな妹をつれていく」というはずかしいおもいをしたあげく、わがままサナのせいでさんざんな目にあいます。そして、冷蔵庫に大切にしまっておいた、おみやげの「大きな赤いぺろぺろキャンディー」(これがこの絵本の原題)まで、サナに食べられてしまいます。そのあと長い間、誰からもおたんじょうかいに呼ばれなくなってしまうところが何とも切ない……。

 アメリカではこの絵本が、「移民のカルチャーギャップ」のお話として紹介してされていることに、やっぱりと思いながらも、ちょっとびっくりしました。日本では、「みんなちがって、みんないい」といいながらも、具体的な「文化のちがい」や「ぎくしゃく」を扱った絵本にはあまり出会うことがないように感じたからです。ルビーナのママは、いつも頭にショールをまいていて、長袖のオリエンタルな服を着ています。「おたんじょうかいって、どういうもの?(中略)なぜ そんなことするの?」とたずねるママとルビーナの一家は、異宗教の、移民の家族として描かれているのでした。

 わたし自身も実は中東で、「招待されていないパーティー」に何度も行ったことがあります。「今夜は近所のおうちで結婚式があるのよ。あなたも一緒にいらっしゃい」と誘われて、結婚式に飛び入り参加したことは、それこそ星の数ほど。男女別のサロンで、生バンドの演奏と歌手の生歌(なまうた)をバックにみんな踊りまくります。フォークロアダンスあり、ナツメロありで、それはそれは華やかでにぎやか。宴の最後には、大鍋が運ばれてきて、新郎新婦の一族の男性たち・女性たちが流れ作業で、サフランで色付けされたご飯とキャバブ(ひき肉の棒ハンバーグ)を「ホイ、ホイ、ホイ!」ともりつけて、ペルシア絨毯の上に敷かれた長~い食布(クロス)に、これまた「ホイ、ホイ、ホイ」と並べていきます。手渡しで配られるコーラを飲みながら食べるご飯は格別。それにこれなら、飛び入り参加が一人や二人、いや、十人や二十人ふえても、へっちゃらですよね。つまり、人を招く、人が集まるって、こういうことだって彼らは思ってる。

 これは、私が暮らしたことのあるイランでの思い出で、『ぺろぺろキャンディー』の原作者ルクサナ・カーンが三歳までを過ごした故国パキスタンでは、きっと違うパーティー風景だっと思います。でも誰が何人来たってオーケーな文化は、アジア、中東、アフリカ、中央アジア、コーカサスくらいまで、広がっているみたい。

 やがて時が経ち、すっかりおねえさんになったサナが、おたんじょうかいに呼ばれます。「こんどは あなたが、(小さい妹の)マリヤムを つれていかなくちゃ」とママに言われて泣き出すサナ。そのとき、かつてつらい思いをしたルビーナは、ママになんて言ったのでしょう。そしてひとりでおたんじょうかいに行くことができたサナが、帰宅後、ルビーナにそっと差し出したものは……?

 「文化のちがい」の問題だけに終わらせることなく、自分がつらい思いをしたそのあとに人はどうするのか、許しと優しさを受け取るってどういうことなんだろう。そんな私たちみんなにとって大切なことを、せつなくほっこりと伝えてくれる絵本です。わがままサナが実は原作者ルクサーナ自身であったことにも何だか胸がキュンとします。

(まえだ・きみえ)



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