こども歳時記

〜絵本フォーラム115号(2017年11.10)より〜

「考え続ける」ということ

 朝夕の風が涼しいというよりも肌寒くなり、昼は日ごと色づく木々の葉が、夜は澄んだ夜空に一段と月が、最も輝く季節を迎えました。皆様、健やかにお過ごしでしょうか。  

 先日、試験期間を終えた娘が「さぁ試験勉強も終わったし、選挙について考えるぞ。誰がいいのかな。これで、もう、投票場の駐車場で待っていることもなし。パパ、ママと一緒に投票できるんだね」、と嬉しそうに言いました。

  今回は10代が参加する初の衆議院議員総選挙。投票出来ることが嬉しいのか。はたまた、投票所駐車場の車の中でポツンとお留守番しないですむことが嬉しいのか。甘えんぼうの娘だけに、一瞬「ん?」と思いましたが、「選挙公約を見比べなくちゃ」といそいそしている姿に18歳なりの責任をしっかりと全うしようという気持ちが伝わってきました。

 さて、私が今回紹介したい本は、『平和って、どんなこと?』(ウォーレス・エドワーズ/さく、おびただす/やく、六耀社)です。「え? 前号の“たましい”をゆさぶる子どもの本の世界のコーナーでたっぷり紹介されていたじゃない!」と思われた皆様、そうです。その通りです。ですが、子どもは気にいった本は何回も何回も「読んで!」と持ってきますし、学校の先生も大事なことは大抵2回か3回は言います。なので、あえて私も本号で紹介します。

 本書では、あらゆる視点から「平和って、どういうことなのか?」という問いかけがなされます。私も深く深く考えながら読み進めました。誰だって、どんな場面でも平和がいい。でも、私にとっての平和は、私以外の人にとっての平和であるのか? そもそも、凸凹がなく平らでツルッと丸く和がとれているように見えれば、それは果たして平和といえるのか? 家庭、職場、心、人間関係、社会、国、あらゆるところにおいて何が平和で何が平和でないのか?

 考えても考えても、実に気持ちがいいほど分かりません。かすかに捉えたように思えた答えも、明日になればいとも簡単に「違う!」ということを思い知らされるかもしれません。それでも平和というかけがえのないものに対して、人に左右されるのではなく、自分なりの答えを自分の中に持ちたい。時には語り合い、他人の平和という考えに触れながら自己を知り他人を知ることで自分なりに考え続け、平和の実現を目指したいと思うのです。

 このたびノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏もおっしゃっています。《誰もが忙しい日常を送っている。自分の小さな生活における責任がどう始まり、どう終わるのか。考えることを全くしなくなれば、いつか大きな事故が起きてしまう。》(10/6日本経済新聞速報ニュースより)と。

 考えてみませんか? 自分にとっての「平和」って、どんなこと……でしょうか? そのために、何ができるでしょうか?

(おおくぼ・ひろこ)


大久保 広子(絵本講師)
絵本講師 大久保 広子


平和って、どんなこと?

『平和って、どんなこと?
(六耀社)


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