こども歳時記

〜絵本フォーラム119号(2018年07.10)より〜

親子でお世話になった絵本    (倉富 展世)

 梅雨明け宣言を間近に控え、もうすぐ夏がやってきますね。夏休みが始まる前のわくわく感は今の子どもたちにも共通しているのでしょうか? 親子でいろいろな体験ができる機会も増えますね。

 子どもたちが小学生だった頃、親子でお料理教室体験に行ったことがあります。皮から作る手作り餃子を作り美味しかった記憶がよみがえります。もうすぐ二十歳を迎える次男は調理士めざして専門学校で勉強中です。その息子に料理指導を受けることがあります。一応二十数年、台所を預かったプライドからか素直に聞けないこともあります。「そんなこといったってさぁ」「理想はそうだろうけどさぁ」と、ついつい言い訳をしたくなります。素直に聞き入れるということの難しさ、体験させてもらいました。いらぬプライドからなのか上からの態度をとってしまい、頭が固いなぁ、頑固なおばさんになってるわ……と反省しきりです。子どもが小さかった頃、頭ごなしに子どもの言い訳を否定したことのある私。認めてあげられるだけの心のゆとりがあればなぁ、と後悔するこの頃です。

 そんな子どもたちと読んだ絵本の中に、先日逝去されたかこさとし氏の絵本『からすのパンやさん』(偕成社)があります。私も子どもの頃大好きだったこの絵本。当時は美味しそうなパンがいっぱい出てきて、森の中にあるパンやさんを想像するのが楽しかったように思います。大人になってまたこの絵本に出会い子どもと一緒に読んでみると、かこさんのユーモアのあるお話がおもしろく、何より出てくるからすの親子はどんな状況になっても楽しく暮らします。そう、こげたパンだって美味しいおやつになってしまうのです。でてくるお友だちや大人のからすたちも皆やさしくて、あったかい雰囲気も含めてこの絵本が好きだったのかもしれない、と再認識しました。のびのびと成長するからすの子どもたち。どんな私でも受け入れてもらえる……と無意識に感じ、うれしかったのかもしれません。

 情報があふれる中、自分が子ども時代には気にもしなかったことに気を配り、ちょっと不安になりながら子育てをする。いつの時代でも自分が子どもの時と変わらない状況だということはないのだから、その時代に合わせて考え判断することは常に必要で、難しいと思います。でも、時代の流れの中で変わらず存在してくれるものもあります。親子でお世話になり楽しかった子ども時代を共有できる絵本もその一つだと思います。この世にたくさんの絵本を送り出してくれた作者の方々に感謝です。

 「ゆるしてください」こんなにも心に突き刺さるかなしい言葉を子どもにいわせないためにも……。

(くらとみ・のぶよ)


からすのパンやさん

『からすのパンやさん』
(偕成社)


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