こども歳時記

〜絵本フォーラム121号(2018年11.10)より〜

子どもの心に消えない星を   (中村 史)

なかむら ふみ この季節には、クリスマスを祝う風習のある世界中のあちらこちらで物語が生まれます。それは、クリスマス前夜や当日に限らず、人々がクリスマスを待ち始めたときから始まります。世界には、さまざまなクリスマス前の習慣がありますが、キリスト教徒でない私にそのことを教えてくれるのは、いつも本でした。  

 たくさんのクリスマス絵本のなかでも、とりわけ印象的なのが『クリスマスまであと九日 セシのポサダの日』(エッツ&ラバスティダ/作 たなべいすず/訳 冨山房)です。

 この絵本には、日本ではあまり知られていないメキシコのクリスマスの風習が描かれています。主人公はセシという幼稚園に通う女の子です。家族とお手伝いさんにかわいがられ、おだやかな毎日を過ごしているセシに、その年特別なことがおきます。今年はポサダに出られるというのです。クリスマス前の九日間、毎晩異なる家で行われるポサダは子どもたちの大きな楽しみですが、早く寝かされる幼い子は出られません。セシにとってポサダに出られるということは、自分だけのピニャタを持てるということです。それがどんなにわくわくすることか、セシの毎日を丁寧にすくって描き出す作者の絵と言葉が、私たちに十分に伝えてくれます。

 ポサダの晩、素焼きの壷に紙を貼り付けて動物などの形をつけたピニャタにお菓子や果物がいっぱい詰められ、庭に吊るされます。それを目隠しした子どもたちが棒で叩いて割るのが楽しみなのです。昔ながらのメキシコのマーケットで選んだセシのピニャタは、大きな星でした。小さなセシは、大切な初めての自分のピニャタが割られるのを、受け入れることができません。木の陰で顔を覆って身をすくめているセシのなんと愛おしいことでしょう。

 自分だけの特別な何かを持つということは、自分の存在が他の誰とも異なる意味のあるものだと感じられることではないでしょうか。小さな感受性の強い女の子、セシが最後にもらった自分だけの星、誰にも壊されない星は、文字通り彼女の一生を照らす星です。セシの物語は、世界中の子どもたちに、自分だけの消えない星を持たせてあげることが私たち大人の役目だと教えてくれます。

 寒い戸外を避け、家の中で過ごす時間の増えるこの季節に、子どもたちにとって家が居心地のよい場所でありますように。毎日を小さな驚きと喜びの連続で過ごす幼い子どもたちを、大人が慈しんで育てられる暮らしでありますように。それは、祈りや願いではなく、私たちが実現すべき社会に向ける信念です。子どもたちがクリスマスを心待ちにするこの季節、子どもを守り育てるべく日々奮闘している私たち大人のそれぞれの星も、ひときわ強く輝くように思えるのです。
(なかむら・ふみ)


クリスマスまであと九日

『クリスマスまであと九日』
(富山房)


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