えほん育児日記
〜絵本フォーラム第122号(2019年01.10)より〜

絵本の世界を一緒に楽しむ

小田 由美(絵本講師)

 

小田 由美 「絵本講師・養成講座」を終了して初めて幼稚園で絵本講座をさせてもらった時のこと。講座終盤で読んだ『おこだでませんように』(くすのきしげのり/作、石井聖岳/絵、小学館)を涙しながら聞いていたお母さんがいました。後日そのお母さんから一通の手紙が届きました。

 《講座の後、本屋さんへ行きました。長女に「お母さんの気持ちも込めて読むからね」と言って読み聞かせをしました。二人で泣きました。「いつも怒ってばかりでごめんね」「我慢ばかりしてたね」「お母さんはあなたも妹も弟もみんな大好きだよ」と日頃思いつつも伝えていなかった気持ちが一気に溢れ出しました。この本は娘と私の心を救ってくれました。二人にとってとても大切な一冊になりました。普段適当な片付けしかしない娘ですが、この本だけは大事にしまっています。この先、幾度となく娘とぶつかる事があると思います。でもこの本がきっと助けてくれると思います。そんな一冊の本に出会えた事に感謝しています。》絵本が私の手を離れこの親子にとってかけがえのない一冊になってくれた事が何より嬉しく、絵本講師になってよかったと実感した出来事でした。

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 あれから5年、長野に引っ越してもうすぐ3年。絵本講座という形で活動する事がなかなか難しいこの地で、今私がしているのは保育園、小学校、中学校での読み聞かせと図書館での0.1.2歳とお腹の赤ちゃん(妊婦さん)への読み聞かせです。 図書館では絵本を読むだけの時もあれば、時間に余裕のある時にはお母さんたちに家庭で子どもと一緒に絵本を読むことの楽しさやメリットをお話しすることもあります。子育てに疲れているお母さんたちが、子どもと一緒に絵本を楽しんで笑顔になっている姿はとても微笑ましく、「絵本を読んでもらうと優しい気持ちになれる」と言ってもらえるのは私にとっても最高に嬉しい時間です。

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 そして今一番楽しんでいるのが、近所の絵本美術館での月一回のおはなし会です。その時たまたま原画展を観に来たお客さんが対象で、大人だけの時もあれば子ども連れの時もあり、年齢層も人数もバラバラで、他府県からの方が多いというその時になってみないと何もわからないワクワクなおはなし会です。

 興味をもって絵本の原画を観に来る人達は、もちろん原画の絵本を読んでもらうのをとても楽しみにしてくださいますが、たまたま寄ってみたとか誘われて何となく来たという人もいて、普段人に絵本を読んでもらうという経験のない人に「絵本を読んでもらうとこんなに楽しいんだ」と言って喜んでもらえると、こちらまで嬉しくなってきます。美術館にある図書室でのおはなし会なので、そこにある絵本からリクエストで読む事も多くあります。

 先日は若い女性から『はじめてのおつかい』(筒井頼子/さく、林明子/え、福音館書店)をリクエストされました。読み終わった後、彼女が「小さい頃よく母に読んでもらった絵本です。最近母と折り合いが悪くて疎遠になってたんですが何だか母に会いたくなってきました」と話してくれました。誰にとっても、大好きな人に絵本を読んでもらって過ごした時間は、やがて心の故郷になり困難を乗り越える力になると嬉しく思った出来事でした。

 子どもたちがそんな心の故郷を持てる大人に育って欲しい、絵本で子育てする事が子どもにとっても親にとっても楽しい幸せな時間である事を一人でも多くの人にお伝えしていきたい。本当に小さな小さな力ですが、この思いを持ち続けこれからもこの地で活動をしていきたいと思っています。

 そして、すでに大人になった人たちとも色々な絵本の世界を一緒に楽しむ時間を多く持てたら幸せと思う今日この頃です。
(おだ・ゆみ)

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