えほん育児日記
〜絵本フォーラム第124号(2019年05.10)より〜

ママの心に寄り添いたい

青田 宏枝(絵本講師)

絵本講師 青田 宏枝 今日も誰とも会話をせずに一日が終わった……。双子の息子を出産したのが2014年の4月。皮肉にもその1ヵ月前に主人は大阪転勤を命じられ、一足先に静岡を去っていきました。産後の回復を待って、ゼロ歳児二人を抱えて大阪に来た私は途方に暮れます。知り合いのいない、初めての土地での子育て。頼みの綱である主人は、新しい職場に慣れようと早朝から深夜まで仕事をしていました。彼も頑張っているのだから私もちゃんと育児をしなければ。しかしそう思えば思うほど追いつめられ、言葉の通じない息子達を見つめながら、ただただ泣いている自分がいました。

 ある調査によれば「子育てで孤立を感じる」という日本の母親は7割にものぼり、出産を機にうつ病を発症する産後うつは一般的なうつの5倍以上の発症率があるそうです。(『ママたちが非常事態!?』ポプラ社より)今思えば私も産後うつだったのかもしれません。子育ての悩みを誰かと共有したいと切望しているのにママ友を作る気力もなく家に籠る日々。やっと授かった息子達といるのがなぜこんなにも辛く感じるのだろう。私は母親失格だと自分を責めてばかりいました。

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 大きな転機となったのは息子達が1歳の誕生日を迎える頃。ベビーカーを押しながら近所を散歩していた時に一人の女性に話しかけられました。その方は子育て支援施設で働く先生でした。私があまりにも暗い顔で歩いていたので声をかけずにいられなかったのでしょう。「一度遊びに来ませんか?」こんな私のことを気にかけてくれる人がいるんだ、と涙が溢れました。

 重い腰を上げて初めて支援施設を訪れた日、先生は笑顔で私と息子を迎えてくれました。施設には同世代のお子さんを持つお母さんが沢山いて、すぐに子育てトークに花が咲きました。他愛もない無いことで笑って、驚くほど気持ちが軽くなりました。私はただ大人と会話をしたかったんだ……。その日は一日中優しい気持ちで息子達に接することができました。 それから、私の気持ちは少しずつ前に向いていきました。子育て中の私に、今できることはなんだろう。子どもにとっても自分にとってもプラスになることをしたい。そんな時に見つけたのが「絵本講師・養成講座」でした。子どもを寝かしつけてからのレポート作成は大変でしたが、無事提出できた時の達成感は久々に味わう感覚でした。

 支援施設の先生の一言がきっかけで私が救われたように、自分も誰かの役に立てるかもしれない。講師の方から貴重なお話を伺うたび「読み聞かせの大切さを伝えると共に、お母さんがほっとできる講座ができたらいいな」という思いが強くなりました。 そして息子が幼稚園に入園し一人の時間を持てるようになった去年、お世話になった子育て支援施設で読み聞かせ講座を開催させていただけることになりました。 講座終了後、私に駆け寄り質問をしてくださった一人のお母さんがいました。よくよく伺うと最近こちらに越してきたとのこと。友達がいなくて……と堰を切ったように子育ての大変さを話され、最後は明るい表情で帰って行かれました。その姿は初めて施設を訪れた時の自分と重なり、なんだか胸が熱くなりました。

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 時代の移り変わりは早く、布おむつから紙おむつが主流になり、レンジで温めれば簡単に離乳食が作れるようになったり、便利な家電や育児グッズが増えたり、生活は格段に楽になりました。その一方で核家族化が進み、近くに相談できる人や手伝ってくれる人が減ってしまったという部分では、精神的にストレスを抱えているお母さんは増えているのではないでしょうか。少し前の私のように孤独を抱えながら子育てしているお母さんの心に寄り添いたい。そんな思いで、これからも絵本講師の活動を続けていきたいと思っています。
(あおた・ひろえ)

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