リレー

「 子どもたちと保育園と絵本と 」
(青森・岡三沢保育園副園長・ 松本 隆子 )


 
 「せんせい早いよ!もっと読んで!」今日も子どもたちは精一杯の要求をしますが、残念ながら私の楽しみの朝の 15分間の時間を終了しなければなりません。

 2年前の「絵本講師・養成講座」に出会わなければ決してなかった大切な時間です。

 それまでは、子どもたちの様子に本来の子どもらしさが消え、騒がしく落ち着きのない状態を目の前に「これで本当に良いのか?」と何かしらの不安を抱え焦る毎日でしたが、「絵本講師・養成講座」受講で絵本の「心の栄養」を自分自身の感性として育て伝えることの大切さ、保育園としての役割は何かを痛切に考えさせられ、意を決し園のテレビのスイッチを切ることにしました。

 最初はテレビのない空間を本当に埋めることができるのかと戸惑いはありましたが、とにかく実行にふみきりました。好きな絵本を自由に楽しむことにし、貸し出しはいつでもOK。結果は案ずるより生むがやすしで、私たちもいかに安易にテレビに頼り雑音の中で生活していたのかと気づき、静寂の中での絵本の楽しさに少しずつ引き込まれていき今では大好きな時間の一つです。また、貸し出しで保護者に「うまく読むことができない」と言われたこともありましたが「何も上手でなくていいの、ただ大好きなお母さんと一緒に好きな絵本を楽しめばいいよ」の言葉に安心してくれたのか次々と借りて行くようになりました。「本当に保育園は絵本が沢山でいいね」と嬉しい笑顔を添えての一言にはテレビでは得られなかった家族との繋がりが強く見え始め、子どもたちの様子も普段はわんぱくなのですが集中力や落ち着きが除々に見え始めているようです。

  読み聞かせを始めて4月で3年目。特に無表情、無反応の子どもたちも時折笑顔で応じていることに気がつき、嬉しく根気よく継続することの大事さが身に染みています。感動する心、優しさ、思いやりなど絵本を通じ読み手と一緒に育まれてきている、その気配に始めて絵本の力の偉大さを感じられるこの頃です。まだまだ迷うことは多いのですが自分たちの感性を育てながら子どもたちと共有の楽しみを続けたいと思います。

絵本フォーラム52号(2007年05.10)より

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