私の絵本体験記
「絵本フォーラム」61号(2008年11.10)より
「共に考え、共に味わえる読み聞かせ」
熊懐 賀代さん (兵庫県芦屋市)

  土砂降りの雨の朝。やむを得ず留守番をさせて出掛け帰ってきた時のこと。元気に出迎えてくれた息子を抱き上げて戻った部屋いっぱいに、『松谷みよ子赤ちゃんの本』 9 冊が散らばっていた。「りっくんが泣いちゃったからさ、 花歩 ( かほ ) が読んであげてたんだよ。すぐ泣きやんだ。」

 いつもの絵本のいつものお話が“大丈夫だよ、お母さんもじきに帰ってくるよ”と安心させてくれたのかなと思う。姉弟で絵本を読む姿は本当にかわいい。まだ文字を読まぬのに娘の言葉は正確で自然だ。少しも飾らずに彼女の優しさが伝わってくる。本当に、娘はこの絵本を心の栄養として食べてしまったのに違いない。

  今、我が家には、こんな幼い日の宝物のような思い出の詰まった絵本がたくさんある。母の字で『昭和○年購入』と書き込まれた懐かしい絵本も年月を飛び越えて並んでいる。素敵な絵本たちのおかげで、私はいつもちょっと優しくなれ、子どもたちは一番かわいい表情を見せてくれ、私たち親子は一緒に笑顔になれる。大好きだよ、という気持ちを温かく交わし合える。絵本から、親子としてもっとも幸せな時間をたくさんもらっているのだと思う。きっと、私が子どもの時にもこの幸せを両親からもらっていたのだと思うと感謝の気持ちでいっぱいになる。

  子どもの成長につれ、大事に伝えたい事は私の言葉の足りなさを助けてくれ、また、子どもの世界をぐんぐん広げていってくれる絵本たち。これからも、親子で共に考え、共に味わえる読み聞かせを楽しんでいきたいと思う。これからも どうぞよろしく。

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