えほん育児日記
〜絵本フォーラム第70号(2010年05.10)より〜

絵本に感謝・ご縁に感謝

小笠原 みちよ(絵本講師)

 「おばあちゃん、今日は絵本でも読みましょうか。『ちいさなうさこちゃん』(ディック・ブルーナ/ぶん・え、石井桃子/やく)という本だよ」と、義母を横に読み聞かせをしたのが、私が絵本と接する第一歩でした。子育てが終わってからは、絵本とは「無縁」という言葉がぴったり当て嵌まるように、手に取ることさえありませんでしたが、認知症の義母との長い一日の時間をどう過ごそうかと思い悩んでいた時、本棚のこの絵本を見つけました。《おおきな にわの まんなかに かわいい いえが ありました。…それから まもなく かわいい あかちゃんが うまれました。ふわおくさんたちは あかちゃんに うさこちゃんと なをつけました。》と読みますと、自分の子どもの名前も忘れてしまっていた義母が、「ひろ子はこのくらいの時に湿疹がひどくてね。夜泣きばかりして大変だったよ」と、今までの表情が一転して笑顔で話し始めました。私は、大変衝撃を受けました。

 義母は、七十歳を過ぎたころから認知症と思われる症状が出て、ご近所のお世話になることが増えたため、私は仕事を辞めて介護することにしましたが、時間を埋めるために始めた読み聞かせが、義母だけでなく読んでいる私自身も気持ちが穏やかになりました。

 そんなに気張らなくても…と気付かせてくれたのが、『ぼちぼち いこか』(マイク=セイラー/さく、ロバート=グロスマン/え、いまえよしとも/やく)でした。《そや。ええこと おもいつくまで—— ここらで ちょっと ひとやすみ。》読み終えた時は、義母の手を握りながら涙が止まりませんでした。気持ちがとても楽になり、意地を張らずに助けていただけるところは有り難く受け入れることにしました。

 自分だけの時間がもてるようになり「絵本の魅力を伝えたい」そんな意気込みだけで始めてしまった読み聞かせ活動です。ここから絵本の一歩が歩みだしました。きっと、義母が絵本への出発点をプレゼントしてくれたのでしょう。亡き義母に感謝、絵本に感謝。

 私がお世話になっている小学校の読み聞かせの三年生には、毎年、『ねえ、どれがいい ?』(ジョン・バーニンガム/さく、まつかわまゆみ/やく)を読むことにしています。 この絵本は、児童だけでなく先生方にもとても人気があります。《どこでなら まい子に なっても いい?》このページでは、それぞれの子ども達の意見が「なるほど」と、大変参考になります。さばくを選んだ児童は、「遺跡を見つけて大金持ちさ」。人ごみを選んだ児童は、「この中に助けてくれる人が必ずいる」「さらわれるかも」。

 《どれなら 食べられる?》では、担任の先生が「かたつむりのおだんご」を選ばれたら「先生、かたつむり食べるなんてきもーい!」と。「フランス料理で高級だぞ。おまえら食べたことないだろう」と、真面目な顔で反論されていた嬉しそうな顔、ユーモアの中にも、たっぷりと生きていく知恵が汲み取れます。

 先生は、総合の授業にこの絵本を取り上げてくださいました。校長先生も毎回、読み聞かせを児童と一緒に楽しんでくださいました。

 私が活動を続けて来られたのは、「絵本」に飽きることなく、絵本という不思議な世界(到達することのない)へ、一歩一歩進むことができ、その不思議な絵本の世界を学ぶ楽しさによって、新しい発見に結び付けることが、できるように意欲が生まれたことです。これは、「絵本で子育て」センターからの大切なご縁をいただいたお陰です。

 全6編の「絵本講師・養成講座」を受けるごとに、絵本から涌きでる魅力に興奮し、読み聞かせは勿論、それに伴った活動や人との絆の大切さなど多くを楽しく学ぶことができました。

 お陰様で、絵本を通して多くのご縁をいただきました。そのご縁の輪が、病院、老人ホーム、児童館…と広がっています。ありがたいことです。赤ちゃんと一緒にお話会に来てくださる若い方も増えてきて嬉しく思います。

 一冊の絵本を、親子で「心かよわせて楽しむ」そんな微笑ましい家庭が増えていくことを願いながら、還暦の体に気合を入れながらもう少し頑張ろうと思います。皆さん、応援して下さいね。

 大切なご縁に、感謝。すてきな絵本に、感謝。(おがさわら・みちよ)

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