私の絵本体験記

「絵本フォーラム」72号(2010年09.10)より
「記憶のちから、それは私の生きる力」
山本 絵理さん(兵庫県西宮市)


 最近、偶然に 1 枚の写真を見つけました。 2 歳くらいの私が父に絵本を読んでもらっている写真です。自分でページをめくろうとしている私は、父のかいたあぐらの間に座っています。写っている絵本は、どんなものだったかさっぱり思い出せません。でも、写真を見たとき、背中に感じた父の体温や大きな手、低くて優しい声が、まるで今そこに父がいるかのように蘇ってきました。それは、私が愛され、大きな力で守られていたという記憶でした。私は、毎晩母や父に絵本を読んでもらっていました。毎回同じおはなしを選ぶ私に、「これ、好きやなあ」と言いながら、いつもの調子で読み始めてくれる母。私は絵本そのものを楽しみ、様ざまな空想にふけりつつ、自分は愛されている、守られているという記憶を重ねていったのでした。そしてその記憶が、壁にぶち当たったとき私を支えてくれた力であり、今の私の生きる力になっているのです。父が亡くなった今でも、こんなに近くに、支えてくれる力を感じられるのです。

 そんな私は今、大好きな絵本を売る仕事をしています。絵本自体の価値と、親子で絵本を読むことの素晴らしさ、それをどう言葉で伝えるか、どう見せるかを、日々勉強中で、なかなか成果がでないこともあります。絵本に関する知識もまだまだ。でも私が誇れるのは、私は絵本を読んでもらって、間違いなく幸せな子ども時代を過ごしたと、言い切れることです。だから、私は努力して、きっと私らしいやり方で、沢山の人に絵本の魅力を伝えられるようになろうと思うのです。(やまもと・えり)

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