リレー

絵本で心のマッサージ
南田 理恵

 人が生まれてくる<場>にたずさわる助産師として、日々の仕事をさせていただいています。家庭でのお産の介助や、母乳育児相談、ベビーマッサージクラスを主宰することで、親と子の絆づくりのお手伝いをしています。

 本が大好きな子どもでした。昭和 51 年、私が小学3年生のときに母が、『ほるぷこども図書館・らいおんコース』を大奮発して買ってくれました。それからというもの、毎夜、母親と読みきかせし合いました。その記憶は、今でも懐かしく甦ってきます。

 『キューポラのある街』(早船ちよ・作、鈴木義治・絵、理論社)、『ガラスのうさぎ』(木敏子・作、武部本一郎・画)、『戦艦武蔵のさいご』(渡辺清・著、藤沢友一・画)などは、ジェンダーや戦争について考えるきっかけとなり、その後に読んだ本たちも、私の生き方に大きな影響を与えました。

 私が主宰する「ベビーマッサージクラス」のなかでは、親子のふれ合いをすすめるべく、わらべうたに合わせた子どもへのマッサージのやり方や絵本の紹介をしています。いちばんの目的は、子どもの心を健やかに育てるということです。

 心が健やかで、キレない人を育てるには「共感力」が必要であり、共感力を育む方法として、脳生理学者の有田秀穂は、『ストレスに強い脳、弱い脳』(青春新書インテリジェンス)で、@涙を流すA呼吸を合わせるBタッピングタッチCグルーミングが大切といっています。

 @は、読書などで他者に共感して、情動の涙を流すことで、前頭前野を鍛え直感力を養うこと。Aは、親子のあやしの呼吸のわらべうたなどで、自分と相手の心が共鳴することを感じること。Bは、肩たたきのように軽くぽんぽんとたたくこと。Cは、撫でるなどの非言語コミュニケーションです。

 新生児訪問に行ったときのことです。その生後一か月の赤ちゃんは、北向きの寝室の無機質なベッドのなかで泣いていました。母親はその様子をみていても、表情をかえずに、「どうして泣いているかわからない」と言いました。赤ちゃんの身体を、乱れた服の上からでもいいから撫で擦るようにアドバイスすると、母親の手に身体をあずけ、次第に赤ちゃんが泣き止み、微笑みました。母親も笑顔になり、「赤ちゃん、寂しかったのかも」と。赤ちゃんと母親の呼吸があって、共感しあえたのですね。

 そのようなかたによく出会うようになって、私にできる仕事があるのではと思い、中国の漢方医科大学に赴き、家庭療法としてのマッサージが、子どもの気持ちを察するのに良い手段であると学んだのでした。

 さまざまな育児不安や、いわゆる「育てにくい子」をもつ親に対して、また、情報化社会の波にのまれて混乱している親にも、まずは、自分の子どもと共感し合えるひとつの技術としてのベビーマッサージを伝えていくことにやりがいを覚え、今年で 15 年になります。

 同じように、ベビーマッサージを通じて、親子の絆を結ぶお手伝いがしたいと願う人たちが全国から集まるようになり、今では、各地で活動が展開されています。

 絵本も身体へのタッチも、子どもの健全な心と身体を育てるのに必須である、とたくさんの親子に関われば関わるほど、いっそう強く感じています。

絵本フォーラム75号(2011年03.10)より

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