私の絵本体験記

「絵本フォーラム」78号(2011年09.10)より
時間をかけて、ゆっくりといこう
隅倉 智子さん(福岡市西区)


 12 年前、私の長女は口蓋裂を持って生まれてきました。 4 歳になって本格的に始まる言語訓練に向けて、当面はたくさんの言語を頭に入れてあげる事、そして感性を育てる事との指導を受けました。

 「感性を育てる」なんとも壮大なテーマです。田舎の緑豊かな土地で育った母親が、都会のマンションで子どもと二人、どうやってその感性を育てていけばよいのでしょうか。

 勧められるままに手に取った絵本。寝る前の儀式として数冊を毎晩読み聞かせました。平均して 3 冊、要望に応じて 5 冊、疲れた私が交渉して 1 冊にしてもらう夜もありました。

2 週間に一度の図書館通いを面倒に感じ、思い切って購入してしまう本も出てきました。小さな娘は小さいサイズの本を好みました。そして私は、ストーリーがシンプルで絵に迫力のある本が好きでした。

 寝室の棚が絵本でいっぱいになった頃、長男が生まれ、続いて次男が生まれました。絵本の役割は一時、彼らの戦いの道具になったり、要塞の囲いになったりしたものの、その量は増え続けております。

 さて、問題の「感性」はどうなったのでしょうか。親の贔屓(ひいき)目で見ても研ぎ澄まされている様には思えません。課題であった言語訓練も、前述の事情によりはかどりませんでした。

 娘は現在、マンガ本をよく読んでいます。ポケモンカード大好き、嵐の相葉君大好き。もう絵本なんて興味ないのかと思いきや、夜、弟たちに読み聞かせを始めると、ゴソゴソと習性の様に寄ってきます。感性の成長とは、思いの他ゆっくりペースなのかもしれません。

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