えほん育児日記
〜絵本フォーラム第80号(2012年01.10)より〜

はじめの一歩を踏み出した私

 「絵本で子育て」〜実践編〜が始まって早くも半年が過ぎようとしている。正直、もう少し涼しい顔で淡々と子育てをする自分を思い描いていたが、実際は体力も精神力もギリギリまで消耗し、喜び、泣き、笑い、疲れ果て毎日奮闘している。勿論、小さな娘は本当に可愛くて、その匂いも、肌の感触も、吐く息さえも愛おしい。一方で、両手首の腱鞘炎に、腰痛、睡眠不足と、産後の身体に更なる疲労が重なる中、娘はまるで何でもお見通しなのではないかと思うほど、絶妙なタイミングで様々な課題を私に与えてくれる。


 特に最初の3ヶ月は、すでに記憶が薄れているほど、必死に一日一日を追いかけ過ぎ去った。昼間はどんな物音も気にせず眠るのに、夜は寝ぐずって深夜何時間も抱っこし続け、気が付けば次の授乳時間になり、そして夜が明ける・・・そんな日が続く。母親や先輩ママ達は皆、口を揃えて「過ぎてみればほんの一瞬のことだから!」と励ましてくれたが、渦中の私には永遠に続くのではないかと思うほど長い道のりに思えた。夕方になると「あぁ、今日もまた夜が来る・・・」と伏せた気分になった。

 しかし生後3ヶ月を過ぎた頃から、娘の生活リズムに振り回されるのではなく、そのリズムに合わせて生活する術が分かってきた。同時に、数時間置きの細切れ睡眠に身体も慣れてきた。身体の調子が整ってくると、ほんの少し気持ちにも余裕が生まれ、ようやく絵本に手が伸びるようになった。
 
 でも最初は「絵本講師の資格を取ったのだから、誰よりも早く沢山の絵本を読まなくちゃ」と間違った焦燥感に駆られて読んだという感じで、本当に娘と絵本を楽しめていたかというと疑問が残る。そして「今日も読まなくちゃ」「あともう一冊読まなくちゃ」と毎日数冊の絵本を読むことを自分に課していることにふと気がつき、思わず苦笑いをしたこともあった。

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 間違いはそれだけではなく、この頃の私は、時に娘を夫に見てもらうことや、「疲れた」「眠たい」と本音を口に出すことをしなくなっていた。「これから絵本講師として人様の前でお話させていただくのなら、この程度で甘えているようではダメだ」と自分に余計な負荷をかけ、せっかくの学びが逆に重荷になっていた。やっと生活リズムに慣れたばかりの私に、そんな大きな負荷が耐えられる筈もない。
 ある日の夜、娘が何時間何をしても眠ってくれないことがあった。ひきつった表情で大丈夫だと言い切る私を見かねた夫が、寝かしつけを代わると言ってくれた。私はそれまで夜の寝かしつけをほとんど頼んだことが無く、そう上手く行く筈がないと思った。ところが、ほんの数分で娘は眠りについた。精神的に不安定な母親の子守唄は、娘には眠りの妨げにしかならなかったのだろう。そして夫に「志帆のためにも、しんどい時はしんどいと言って少し休んだほうがいい」と言われた。「おおらかなお母さんが育てると、おおらかな子に育つ」という母の言葉も、「頑張らなくていいからね。ほどほどに。」という先輩絵本講師の方の言葉も、この時にやっと理解出来たような気がした。

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 「過ぎてみれば一瞬のこと」この言葉も今なら大きく頷ける。きっとこれから何度も難しい時期を経て娘は大きく成長していく。それは娘の大切な成長の証で、私自身もその課題に取り組みながら、親として成長していくのだろう。はじめの一歩を踏み出し、ほんの少しだけ成長した私は、今やっと心の底から娘と絵本を楽しむ穏やかな時間が持てるようになった。志帆は4ヶ月を過ぎた頃から表情も豊かになり、色彩のはっきりした絵の本を食い入るように読むようになってきた。また、私がページをめくることに興味津々の様子で、めくったページを不思議そうに触り、口に運び、全身で絵本体験をしている。

 不器用な新米ママの子育て奮闘記は、こんな調子で次号へと続く・・・。(はら・ちえ)

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