こども歳時記

〜絵本フォーラム87号(2013年03.10)より〜

心を寄り添わせ、幸せをつくりだしたい

 私は秘書という仕事がら、また総務部門の人事担当として社員研修などに関わる立場にいるため、自分の枠や限界をなくそうと様々な勉強会や講演会に出かけることを心がけている。それは、社に役立つ者になるためのスキルの強化だったり、社に持ち帰って重要なことを伝えていくという役割のためだったりするのだが、実際は、私個人が「自分の中の軸はブレていないか?」「自分の目指している生き方が出来ているか」「生きる姿勢は美しく正しいか?」を確認するためなのである。

 そんな中、昨年末から数々の講演で、大切にすべきこととして「いのち」「時間」「おもてなし」「ご縁」「感謝」「100年先も」というキーワードが多く耳にとび込んでくることに気づいた。
 職種や役職や講演のテーマも内容も全く違う講師の方々の口からだ。
 「いのち」……確かに、まだ何十年も生きる気になっている。時間はとめることが出来ないのだから、いつか迎える死という終着点に向かっていることをもっと意識しなくては。「時間」も然り。限られているこの時間で何ができるのか、何をなさねばいけないのか、ということが非常に重要に思える。となると自分のやりたいことを厳選し、そのために大切な時間を使おうと考えるようになり、まだまだと思い先延ばしにしていたことを実行しなくては……。

 このように、キーワードの一つひとつを自分に問うていくと必ず最終的に「では、何を大切にしたいの?」……豊かな心、「感」の字のつくもの(感性・感動・感涙などなど)をはぐくむ、よきコミュニケーション……相手を受け入れ、心を寄り添わせ、幸せをつくりだしたい。それも自分だけではなく、まわりの人とともに、さらに次の世代に手わたしたい……と、思考は100年先にとんでゆく。そして「次の世代に手渡すには?」で、やはり「絵本で」にたどりつくのだ。

 そのように思い巡らすなかで頭に何度も登場した絵本が、『くだもの』(平山和子/さく、福音館書店)だった。私が紹介するまでもなく幼児絵本の中ではダントツ!の地位を誇る絵本であるが、あえてここで紹介したい。
 旬のものという感覚がなくなってきているこのごろ、この絵本では背景の人物の服装(ニットやセーター、半袖など)で旬の季節が描かれ、緻密な絵からはくだものが一番輝く瞬間が描き出されている。また、器のあしらい、包丁使いが伝わる皮のむき方、「さあどうぞ」と優しく差し出された手からは、愛情あふれる心が伝わる。
 相手が食べやすいように心を尽くしているこの絵本は、ホスピタリティの原点をも教えてくれる。この本を読み聞かせてもらった子どもはきっと、知らず知らずのうちに相手の心に寄り添うことができるだろう。美しい生き方ができるだろう。
 私も美しく生ききろう……表紙に描かれたサクランボのきらめきの下にある影が、急に愛おしく見えた。


        
大久保 広子(おおくぼ・ひろこ)


『くだもの』
(福音館書店)

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