えほん育児日記
〜絵本フォーラム第89号(2013年07.10)より〜

私の走路 それは絵本講座

久賀 弥生(絵本講師)

 「絵本講師・養成講座」を修了して以来、学べば学ぶほど知りたいことが出て来て、読みたい本が増えて、本当にきりがありません。もともと「思い込んだら一直線!」の性格ではありますが、もっともっと勉強したい! 絵本、児童文学、読み聞かせのこと、人権、子どもを取り巻く社会のこと……絵本講座のためにいろんなことを勉強したい! と、まるで運動部の学生が練習を積んで自分を鍛えるような、何度目かの青春? の真っただ中にいます。

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 大好きな子どもと絵本をつなぐ読み聞かせを始めて17年。幼稚園や小学校、中学校、図書館やお年寄りの施設などを訪れると、楽しいエピソードに出会います。
 私のRockなダメージドジーンズの穴に指を突っ込んで、ホジホジしながら聴いてくれる子。膝小僧に頬っぺたをスリスリしながら聴いてくれる子。後ろ向きになって背中で聴いてくれる子。さすが関西、ツッコミが入ることもしばしばです。
 小学校の学童保育に、娘を連れて読み聞かせに行ったときのこと。「おっ、今日はオバハン、子連れで来よったで!」と、中から男の子のからかうような声が聞こえてきました。でも、私はその言葉を聞いて「待っててくれたんやなぁ」と嬉しくなりました。今日はどんな人が来るんやろ? どんな絵本を読んでくれるんやろ?……きっとその男の子は、窓から外を眺めて待っていてくれたに違いありません。家で読んでもらうことが無く、そこでしか絵本に触れられない子もいます。いつも、どの子にとっても読み聞かせのひとときが、楽しく心温まる時間であってほしいと願いながら絵本を選びます。

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 昨年「元気が一番塾」という先生方のセミナーで絵本講座をさせていただいたとき、参加された先生方のまっすぐな視線と真摯な姿に、魂が震えるような感動を覚えました。
 『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子/著 講談社)という小説があります。陸上競技部でスプリントに燃える高校生が主人公の物語で、顧問の先生や先輩、仲間たちと支え合いながら葛藤を乗り越え成長していく主人公の姿に、自分もこうありたいと、いつの間にか自身を重ねて読んでいました。何度も涙が出ました。「元気が一番塾」の先生方の真剣な姿を目の当たりにしたときと同じように、魂が震えました。
  最後の巻を読み終えたとき、私の前にも「光る走路」が伸びていることに気付きました。私の走路、それは絵本講座です。人生の中で、これほど情熱を傾けられる機会を持てることに、よろこびとやりがいを感じています。その走路を、己を鍛えて全力で走りたい。何のために走るのか。それは大好きな子どもたちのためです。真摯に学ばれていた先生方の心のなかには、きっとたくさんの子どもたちがいたことでしょう。もちろん、講座を聴きに来てくださる人たちの心のなかにも。

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 今、世の中が便利になりすぎていると感じます。効率や目に見える成果ばかりが優先されて、時間や手間をかけることがどんどん省かれていくようです。でも、便利になって得られるものは目に見えやすいけれど、失われるものは見え難く、とても大切なものだったりするのです。便利になることは悪いことではないけれど、流されずに立ち止まって考えることも必要です。

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 子どもたちが生きる未来が、お金よりも人を大切にする社会であってほしい。人の心の痛み、小さな悲しみやよろこびに気づけるような、優しくあたたかい社会であってほしいと願います。そのために、絵本講座で伝えたいことがたくさんあります。絵本と、私の胸にいっぱい詰まっているのです。
  がむしゃらに頑張る高校生の姿や、先生方のひたむきな姿に私の魂が震えたように、私も、聴いてくれた人の魂が震えるような絵本講座がしたい。アスリートのようにスマートではないけれど、自分の走り方で、一心に走り続けたい。
 そんなことを思いながら、位置について、用意、「ドン!」の掛け声を待ちつつ、今日も光る走路を見つめています。

                    (くが・やよい)

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