こども歳時記

〜絵本フォーラム90号(2013年09.10)より〜

あなたは言葉の力を信じていますか

 猛暑、酷暑、熱中症……。今夏もまた幾度となく眼にし、耳にした言葉です。そういえば最近、夕立の代わりにゲリラ豪雨という言葉をよく聞くようになりました。実はこのゲリラ豪雨は、気象庁の正式用語ではなく、メディアなどが5年ほど前から頻繁に使うようになり浸透した言葉だそうです。夕立という響きをなつかしく思うのは、私だけでしょうか。稲光、雨宿り、涼しい風。こんな連想ができるのも、夕立という言葉のもつ自然のやさしさなのでしょうか。
 今年8月の新聞の一面に「ネット依存 中高生52万人」との記事が掲載されていました。厚生労働省研究班の実態調査によるもので、中高生を対象にした初の全国調査だそうです。インターネットの長時間使用によって、睡眠障害や体調不良など日常生活や健康に悪い影響が出ているとのこと。確かに、電車に乗って車内を見れば、新聞や雑誌、書籍を読む人の割合は、中高生にかぎらず非常に少なくなっているように感じます。多くの人が、携帯電話やスマートフォンに視線を注いでいる状態です。その視線を自分のまわりに向けてみませんか。
 『最初の質問』(長田 弘/詩、いせひでこ/絵、講談社)の冒頭の一節です。

 今日、あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、 近かったですか。
 雲はどんなかたちをしていましたか。風はどんな匂いがしま したか。(後略)

 このような質問が続いていきます。やわらかい言葉で投げかけられる質問にゆったりとした時間が流れます。先日、ある研修会でこの詩を読ませていただきました。終了後に、出席者のおひとりが詩の一節にとても考えさせられたと話されていました。それは、「ゆっくりと暮れてゆく 西の空に祈ったことがありますか」でした。作者の長田弘さんは、「言葉という楽器」との表現をされています。言葉という楽器の響きに応えて、ひとそれぞれ置かれている立場で何か大切なことを感じてくださっているのが良くわかりました。この詩は、中学3年生の国語の教科書に掲載されているとのこと。雨の雫、川、街路樹、鳥の声、そして、沈黙の音。子どもも大人も自然の中の自分を見つめる素敵な時間を楽しんでみたいですね。
 日本には、季節をあらわす言葉がたくさんあります。立春、大暑、秋分、冬至などの二十四節季。また、節分、八十八夜、二百十日など、雑節という季節の移り変わりの目安となる日本独自の名称もあります。これは自然現象と農業などの日常生活との深いかかわりをあらわしています。ネット依存といわれる時代だからこそ、季節をあらわす言葉を通じて、子どもたちに、そして、大人たちにも自然を感じてほしいですね。
 あなたは言葉の力を信じていますか。

池田 加津子(いけだ・かずこ)


『最初の質問』
(講談社)


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