えほん育児日記
〜絵本フォーラム第93号(2014年03.10)より〜

小学生にも絵本を!

中田 朋子(絵本講師)

 絵本講師になって3年目、その間に3回ほど講座をさせていただきました。人前で話すことが苦手なため、講座をする決心がつかないのですが、周りの方に絵本講師の資格を取った話をすると、相談される機会が増えてきました。
 友だちに、「4歳の娘を4月から保育園に通わせることになったのだけど、毎朝行くのを嫌がりぐずるので困っている。どうしたらいいかしら」と相談されました。娘さんは、保育園に行ってしまえば、楽しく過ごしているそうです。そこで、『ちびゴリラのちびちび』(ルース・ボーンスタイン/さく、いわたみみ/やく、ほるぷ出版)を保育園に行く前に読んでみたらと伝えました。
 絵本は、片手間で読むことはできません。朝、忙しい時間にお母さんが自分のために絵本を読んでくれることは、子どもにとって、とても嬉しいことです。そして、この絵本は「大好き」という言葉がたくさんでてくるので、聞いている子どもは自分が言われているように感じ、お母さんの愛情を感じることができます。今までお母さんと一緒にいて、ある日突然保育園に行かなくてはならないことは、子どもにとって寂しいことです。だから、朝お母さんの愛情を感じたら、頑張って保育園にいこう! と思ってくれるのではないかと思い、お勧めしました。友だちは実行してくれました。お子さんは、今までぐずっていたのが嘘のように、ご機嫌で保育園に行くようになったそうです。

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 愛情をたくさん感じて育つと、自己肯定感が高まり、困難なことがあっても乗り越える力を持てるそうです。絵本を読むことでお子さんにたくさん愛情を伝えて欲しいと、赤ちゃんがいるご両親にお話を聞いてほしいと思っていましたが、最近は、小学生のいる親御さんに聞いてほしいと切実に考えるようになりました。小学生になると、親子のコミュニケーションが不足し、子どもは寂しい思いをしていると感じます。5年生の娘の授業参観で、お母さんが来ていない男の子が、「俺たち見捨てられたんだ」と言った言葉が忘れられません。
 図書ボランティアの仲間が、4年生に『パンケーキをたべるサイなんていない?』(アンナ・ケンプ/文、サラ・オギルヴィー/絵、角野栄子/訳、BL出版)を読みました。両親が、子どもの話を聞いてくれないという内容ですが、子どもたちに「みんなのお母さんお父さんは話を聞いてくれる?」と質問すると、「聞いてくれない!」と大きな返事が返ってきました。親は子どもと話しているつもりかもしれませんが、どうやら一方通行のようです。
 この絵本を読んで、「お母さんは話聞いているよね」と子どもに尋ねると、「この絵本のお母さんよりは聞いてくれる」とか「お母さんも話をきいてくれない」などの返事が返ってくることで、親子のコミュニケーションがとれます。小学生になったからといっても、子どもは自分の気持ちを理路整然と話すことはできません。子どもとたくさん話しているうちに、困っていることや悩みを読み取ることができるのです。小学生になると習い事などで忙しく、ゆっくり会話をする時間も取れなくなるようですが、だからこそ、絵本の出番です。

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 小学生のお母さんに絵本を薦めると「小学生なのに絵本?」と言われることが多いのです。でも、実際に読み聞かせを始めたお母さんは「子どもがあんなに絵本を喜ぶと思わなかった」、「子どもと絵本を買いに行くようになり、絵本がどんどん増えている」という報告をしてくれます。絵本を読むことで、共通の体験をし、同じ感情を味わうことができる。それを毎日積み重ねていくことで、心の交流ができ、親子の絆が深まっていくと私は思っています。小学生になっても決して遅くはありません。親子で絵本を楽しみ、もっと子どもと向き合ってほしいと思います。

                   (なかた・ともこ)

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