えほん育児日記
〜絵本フォーラム第94号(2014年05.10)より〜

一対一の関係を大切にしましょう

作井 智子(絵本講師)

私は現在、公益財団法人ラボ国際交流センターでの仕事の傍ら大学院で発達心理学を学んでいます。発達心理学は加齢に伴う人の発達的な変化を研究する学問です。乳児期から老年期まで全ての世代の人々がこの研究の対象になりますが、私は現在、乳児期〜児童期までの発達に興味を持ち、学んでいます。

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 最近、ある研究の手伝いで、幼児期から児童期までの子どもと親とのやり取りの映像を見る機会がありました。この映像の子どもは兄弟が下にいる第一子が対象になっています。普段は妹や弟に向けられている母の目が自分一人に注がれていることを理解し、どの子も上機嫌で母との一対一のやり取りを楽しんでいました。しかし大抵、二人でやり取りをしている最中に傍らでその様子をみていた弟や妹がかなりの確率で割り込んできました。そして、自分も兄(姉)と同じことやりたいと要求します。母はそれを容認し、母の目は妹や弟たちにも注がれるようになります。今まで自分だけに集中していた目が弟や妹に向けられるようになり、そして、弟(妹)の手助けをしなければならないという兄(姉)としての行動を求められるようになるのです。

 この映像を見たときに少し兄(姉)が気の毒になりました。もちろん、毎回、嫌々妹や弟の世話をしている訳ではないと思いますが、普段から第一子は「兄(姉)」という役割を常に背負わされているのです。第一子と第二子の性格の違いなどが、よく取り沙汰されています作井 智子が、違った役割を与えられて育てられれば当然違いが出てきます。それぞれの特性が持つ良さもあるので、兄弟における役割を否定するつもりはありません。また、親が上の子も下の子も分け隔てなく育てるのもかなり難しい現実もあります。ただ、少しだけ親御さんにこのことを意識してもらいたいと感じます。

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 今回の映像を見ていても、第一子の子は大抵、第二子以下の子どもたちよりも母親の顔色を敏感に察知し、母を気遣った行動をとります。妹や弟が母と自分のやり取りの中に入ってきても、それを断ることはしませんし、むしろせっせと面倒をみます。けれども、二人でやり取りしていた時の表情とは明らかに違いました。二人でやり取りしているときはもう少しお母さんに甘えたような表情が垣間見られました。「自分だけに目を向けてくれる母」を堪能しているのでしょう。この状況一つ見ても、一対一の関係を親が意識してもつことは、子どもにとって意味があり、重要だということが分かります。子どもとの一対一の関係を重要視することは、よく言われていることで「そんなことは知っている」と思われるかもしれませんが、知っていることと、実際出来ているというのは別の問題です。日々の忙しさに流され、分かってはいるけれど、なかなかできていないという方も少なくはないのでしょうか。

 そのような時に、お勧めしたいのがやはり絵本です。絵本フォーラムを読んでおられる方は絵本の魅力は十分にご存じだと思います。絵本は一人の子にも読めますし、大勢の子と楽しむこともできます。たとえ、絵本を読むときに一対一になれない時があったとしても、「自分がリクエストした絵本をお母さんが自分のために読んでくれている、自分のことをお母さんは気にかけてくれている」ということを実感できるでしょう。 人は幾つになっても色々な形で自分の存在価値を意識して生きています。小さな子どもが自己の存在価値を概念で捉えている訳ではありませんが、一人の人間として認められ受容される経験は、自己存在価値を高め、他の人の存在も大切にすることに繋がるでしょう。「あなたはかけがけのない存在なんだよ」と最初に子どもに伝えてあげるのは、やはり身近にいる人であって欲しいと切に願います。
(さくい・ともこ)

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