私の絵本体験記

「絵本フォーラム」94号(2014年05.10)より

たいせつな思い出となるように

岡 真由美さん(兵庫県西宮市)

 幼い頃、母はよく昔ばなしを語ってくれた。桃太郎、浦島太郎、花さかじいさん。歌をまじえて語ってくれたその声、その歌、語り口は今でもはっきりと思い出せる。
 私には3人の子どもがいる。読み聞かせを卒業した小6の長男にはお気に入りの絵本がある。何度絵本専用本棚に戻してもいつの間にか彼の机の本棚に並んでいる。もう1冊購入して、今までのものは彼専用にすべきだろうか。嫌なことがあったり、何かに行き詰まったりすると、本棚から消えて彼の部屋に置かれる絵本もある。心のよりどころとなっているものなのだろう。なぜその絵本なのかは彼にしかわからない。聞いても答えないだろう。ただその絵本に彼が救われているのは事実だと思う。
 長女と二男は「読んで、読んで」とせがんでくる。長女は自分で読めるものの、私に読んでもらうことで安心感を抱き、心ゆくまで絵本を楽しんでいるようだ。読み聞かせをした夜としない夜では寝つきが違う。二男は絵本の言葉を音で楽しむ。「おじいさんが かぶを うえました」「あまい あまい かぶになれ。おおきな おおきな かぶになれ」と、私とかけあい、そらで読む。こんな楽しく穏やかな絵本タイムが、いつかこの子たちの心の支えとなる一冊を生み出すのだと思うと、たくさんの絵本を心をこめて読んであげたい。
 亡き母の声が私の記憶に鮮明に残っているように、私の声と物語りが温かな思い出として子どもたちの記憶に残っていくことを信じて。
(おか・まゆみ)

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