「絵本フォーラム」20号・2002.01.10
第1回
電子機器の恐るべき暴力

発語年齢になっても、言葉が出ない子どもが急増している。〈発育の異変〉の
背後に電子機器に囲まれて暮らす現代の家庭環境があるのではないか?(編集部)
  ビデオ・テレビ・テレビゲームを長時間見せておくと、人とコミュニケーションがとれない子になるとか、落ち着きや集中力のない子になる、遊べない子になる、表情のない子になる、発達が遅れる、言葉が遅れるなどということを聞いたことはあると思います。
 ビデオ・テレビ・テレビゲームを見ている時間も、見せ始めた月齢も、内容も、見せ方も、そして見ている以外の時間の過ごし方もみな家庭によってさまざまですから、一概に「〜だから〜だ」という方程式は成り立たないかもしれません。しかし、母親は感覚的に、うすうす「〜だから〜だ」ということをわかっているものですね。
 お母さんたちがテレビを見せておけば楽だと思うのなら、そうやって育てるのは親の選択ですね。しかし、テレビに子守りをさせた結果、学習意欲もなく、勉強する気もなくなっても、親が責任を持って背負っていかなければならないことも、よく承知しておく必要があります。皮肉なことに、親たちの深い悩みの原因の1つがビデオ・テレビ・テレビゲームから起きていると、私は考えているのです。特に2歳以下の子どもにはテレビは不要、もし見せるなら30分ぐらいにして見終わったら切ることです。又、この時期教育的な配慮はまったく必要ありませんし、悪い影響を与えるだけです。
 さらに、ビデオ・テレビ・テレビゲームに強い興味を示す子どもが多い時代ですが、それらの内容は刺激的なもの、攻撃的なもの、乱暴なもの、生々しいものなどさまざまです。子どもが小さいうちに親がよほどこうしたゲームの与える影響についてよく考えてあげなければ、後に親が深刻な悩みを抱えることになると、とても気になっています。一方では、そうしたことに気付いて、いち早く行動しているお母さんたちもたくさんいます。すでに、2歳以前にテレビやビデオを見せないようにしているお母さんたちが各地に大勢いて、外遊びをさせています。
 就学年齢になりますと、テレビゲームやコンピューターが遊びの花形となります。ある母親の話です。この人には小学2年生の息子がいます。この男の子は宿題をするのに、10分も座っていられないのです。家では、小さいころからビデオ・テレビ・テレビゲーム漬けで過ごしてきました。母親が仕事を終えて帰ってくるのは午後7時半ごろ。子どもは学童保育から帰ってきてから母親の帰宅までの間、5時半から7時半ごろまで、毎日テレビゲームをしていたそうです。働いている母親としては、帰宅までの時間は夕方でもあり、家にいてテレビゲームしてくれていた方が安心でいいと思っていたそうです。今では知的好奇心が貧しく、学習に対する意欲も乏しく、語彙も少なくて、宿題もやろうとしなくなりました。
 ご自分のお子さんがどう時間を過ごすかは自由です。小学校に入ってから体を動かすことが嫌いな子、頭を使って考えることを面倒くさがる子、言葉で考えや意志が伝えられない子になってしまっても、親として子どもを責める資格はありません。子どもをそうさせてしまったのは、他ならぬ親自身なのですから。したがって、ビデオ・テレビ・テレビゲームといった機器類とのつき合い方は、両親がよく考えて与え方等を話し合う必要があるのです。
 家の中にビデオ・テレビ・テレビゲームが無ければ子どもは退屈です。そうなると自然と「外遊び」をしたくなるのではないでしょうか。乳幼児期にビデオに親しませて、体の動かない、心の動かない、頭の動かない子に育てるのか、外遊びや母と子の遊びを大切にして体や心のよく動く子に育てるのか、親はよく考えた方がいいと私は提言したいのです。
〈筆者プロフィール〉
片岡直樹(かたおかなおき)

1942年生まれ。岡山大学医学部卒業。岡山大学医学部小児科助手、川崎大学医科大学小児科講師を経て、現在、川崎医科大学小児科教授。
日本小児科学会評議員、日本小児保健学会評議員、日本未熟児新生学会評議員、日本小児心身医学会評議員、こどもの生活環境改善委会委員、一般小児科医。
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