「絵本フォーラム」21号・2002.03.10
第2回
テレビ・ビデオを赤ちゃんの頃から長時間見せられ、
言葉やコミュニケーション(対人関係)が育たない子どもたち

− 電子機器は愛着形成を困難にしている −
2歳2ヶ月 A子ちゃん
(平成4年8月生まれ)
 歩行1歳2ヶ月、乳児期からよく飲みよく眠り、手のかからない児でした。2歳上の姉が母親を独占したため、生後6ヶ月からテレビ・ビデオ視聴が遊びの大半を占めました。ディズニーもののビデオが大好きで、1歳頃には1本1〜2時間の作品を繰り返しみていました。2歳になっても言葉が出ず、1人でおもちゃ遊びをし、意味不明の「ムニャムニャ」語を楽しそうに発するのみでした。衣食住の生活習慣は普通でしたので家族は異常に気付きませんでした。
 2歳2ヶ月言葉が出ないので、両親が知的な遅れを心配されて、私のところへやってきました。視線が合わず、呼んでも振り向きません。指さしもしません。しかし、診察は1人でおとなしく座ってできました。多動はありません。母親との愛着が育っていないことを説明して、テレビ・ビデオを一切中止することと、人間同士のかかわり遊びを指導しました。その後、ゆっくりと言葉がでるようになり、1年後保育園、そして小学校へ無事行くことができました。

3歳 Bくん
(平成10年10月生まれ)
 歩行1歳、元気に生まれ順調に育ちました。生まれた時からテレビは1日中つけっぱなし。7ヶ月から早期塾へ通いはじめ、英語ビデオを1日2〜3時間、絵・数字・あいうえおカード各20〜30分を1日3回みせました。1歳頃アンマン、バーバー、ブーなど赤ちゃん言葉が出ていましたが、まもなく言葉が消えました。視線が合わず、両親の言葉かけにも反応しなくなりました。後追いや指さしもできません。2歳から言葉遅れのため親子教室へ週1回通っています。2歳10ヶ月私の本に出会い、テレビ・ビデオなど音の出るものを全部中止しました。ミニカーを一列にきちんと並べて、トントンたたいて遊びます(1日数10回)。意味不明の独語をたくさん発します。3歳、私のところへ初めて来られました。目と目が合わず、うろうろして座っておれません。ジェスチャーでの意思表示もできません。コミュニケーションは人間同士のかかわりの中で育つことを指導しました。3歳半、呼ぶと振り向くようになり、遊びも少しかかわれだしました。まだ言葉は出ません。

2歳6ヶ月 C子ちゃん
(平成10年6月生まれ)
 母乳で育ち、離乳食もよく食べました。11ヶ月歩きはじめ、言葉がたくさん出ました。化粧、ハイ、バイバイ、手を合わすなどの真似がたくさんでき、指さしも得意でした。母親は1年間の育休を終え、幼稚園の職場へ復帰しました。その後祖母やおばが児の面倒をみました。テレビ・ビデオにはまり、アンパンマンビデオなど1日に7〜8時間みせました。1歳8ヶ月目が合わない、返事しない、まったくしゃべらなくなりました。テレビの中の体操のポーズをよく真似していました。欲しいものは母親の手をひっぱって行って冷蔵庫の上の方や下の方をノックして知らせます。気に入らないと、ひっくりかえってパニックになります。母親が異常に気付き、家庭でのスキンシップをたくさんしました。2歳6ヶ月私の書いた『週刊宝石』の記事をみて、3歳初めて私の外来に訪れました。奇声を発する、言葉出ない。3歳半、母親の真似をしたり、要求を言葉で伝えようとする態度がみられ、少し変化してきています。



 初めてお会いした時、3人とも言葉遅れとしては最も重症の“自閉症”にあてはまりますが、起こり方は三人三様です。A子ちゃんは赤ちゃんの頃から何となくテレビに子守りをさせていた例、Bくんは早期塾に通いパターン化した知育にはまった例、C子ちゃんは1歳過ぎからテレビ・ビデオにはまり、折れ線タイプの言葉遅れをきたした例です。赤ちゃんが人間らしく育つには、母児の愛着形成がいかに大切であるかを如実に示しておりますね。お母さん、お父さんの声で語ること、一緒に遊ぶこと、そして子ども同士のごっこ遊びが子どもの脳を賢く育てるのです。

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