「自分の心に訴える絵本を子どもにも読んで」
西日本新聞

西日本新聞
2007年7月18日

絵本は大人こそ読もう
忘れかけていた、当たり前の道理を思い出させる

「たましいをゆさぶる絵本の世界」著者
飫肥 糺さんに聞く

 心に響く絵本とはどんなものか。なぜ今、読み聞かせなのか。文芸評論家の飫肥糺さん(62)がこうした疑問に答える「たましいをゆさぶる絵本の世界」を出した。宮崎県日南市で過ごした青少年時代の経験を基に、長くく読み継がれる四十冊に込められたメッセージを解き明かしている。絵本の魅力について飫肥さんは「大人が忘れかけた当たり前の理を思い出させてくれる。子どもだけでなく、大人こぞ読むべきだ」と語った。
(聞き手・下崎千加)

 …もともと出版社で歴史書の企画編集に携わっていた飫肥さんが、絵本に興味を持ったきっかけは?
  「僕が小さいころは山と川が遊び相手で、絵本は読んだことがなかった。三十代になって自分の子どもに読んでやる中で、『この心地よさは何なのか』と思うようになった。大人は社会の不合理やあきらめといった垢にまみれ、人として大切なことを忘れてしまう。絵本はそれをストンと胸に投げてくれる」
  「『ぐりとぐら』(福音館書店)は食のありがたさ、『わすれられないおくりもの』(評論社)は生命の尊さ。大人の世界じゃ恥ずかしくって言葉にできないように根源的な道理を、余計な説教なしに伝えてくれる」

…絵本は子どもだけに向けられた本ではないと。
  「大江健三郎の本は何を言わんとしているのか読み解くのに相当の力がある。でも『トビウオのぼうやはびょうきです』(金の星社)を読めば、大人も、核兵器によって弱い者の命が脅かされていることへの怒りが自然に沸いてくるでしょう」
  「この七年間、僕は千冊余りの絵本を読み、そのうち約百冊について感想を書き留めた。10%が心に響くというのは、一般図書ではあり得ない。子育て世代だけではなく、行政職員や教育関係者ら子どもにかかわるすべての大人が読むべきだ」

…読み聞かせのボランティアが全国的に広がり、絵本に注目が集まっている。
  「しつがとわれている。聞かない子どもたちを大人がしかっている光景を目にする読み聞かせは大人と子どもが感動を共有するコミュニケーション手段。まず大人がその絵本の意味を知り、読むことを楽しめば、氏銭子どもに伝わるものだ」

…子ども読書活動推進法が2001年に施行され、乳幼児健診時に絵本を贈る「ブックスタート」制度を導入する自治体も出てきたりと、行政のバックアップも始まった。 
  「国は法執行によって5年間で650億円の特別予算を組んだが、実際は一部しか図書充実のために使われていない。財政難や市町村合併で自治体の対応もまちまちだ。保護者や教諭らがスクラムを組んで是正するよう働き掛けており、こうした動きに期待したい」

 おび・ただす 1945年1月、中国・大連市生まれ。本名は図師尚幸。宮崎県日南市で高校時代まで過ごす。早大卒業後、新聞記者などを経て書籍編集者。共著に「家永三郎編日本の歴史」訳書に「ゴルバチョフはどんな改革をめざしたか」。千葉県市原市在住。「たましいをゆさぶる絵本の世界」はNPO法人「絵本で子育て」センター(0797・38・7516)刊。新書判236ページ、840円。

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