2016年2月21日(日)、NPO法人「絵本で子育て」センター主催による、小澤澤俊夫氏講演会「昔ばなしとこども」が芦屋市のラポルテホールにおいて開催されました。

  小澤先生からご了承いただきましたので当紙面で講演録として連載いたします。
 (構成・池田加津子、協力・東條真由美)

                    ※絵本フォーラム 2016年5月10日 第106号より

                 *   *   *

 こんにちは。ご紹介いただいた小澤俊夫です。貴重な時間ですから、いきなり本題に入ります。

小澤俊夫氏  最初に僕のほうで質問をさせてもらいたいんだけれども、昔話はどこにありますかって僕が聞いたら、皆さん何を思い浮かべますか? 昔話ってどこにあります?って聞いたら……絵本に書いてありますっ言うよね、「絵本で子育て」センターだもんね(笑)。あるいは、昔話集に出てくる、あるいは時々ラジオに出てくる。そうするともう、僕らが実際に田舎へ行っておじいちゃん、おばあちゃんから聞いてきた人間からするとですね、昔話が本当にあるのは、それが語られていた時間の間だけなんです。語られている時間の間にだけ、昔話はある。終わったら消えちゃう、そういうもんです。

  と言ったらもう皆さん気が付いたと思うんだけど、音楽と同じだよね。音楽も演奏されている間だけあるんです。CDがあるじゃないかというけれど、それは缶詰に過ぎないんでね。本当にあるのは、演奏されているその時間だけ、音楽は時間に乗った芸術ですね。

  昔話も同じ意味で、時間に乗った文芸です。そこをまず覚えといてください。

 なぜそんなことを先に言うかっていうとですね、おそらく皆さん昔話っていうのはみんな本で読んでると思うんだよね。僕も本を出しているけど、本で読んでると思うんですよ。だから、昔話ってのは本に書いてあるもんだと思っている人がすごく多いわけ。で、それは本に書いてあるもの、例えば児童文学の本に書いてあるものと昔話、比べてみてください。本に書いてる小説・児童文学は、例えば50ページの本で20ページまで読んでって、何だか筋がわからなくなったら、元へ戻って読み返すことができるでしょ。もう一度読むことができるじゃないですか。あるいはどっかで止まって考えることも出来るよね。ですから書くほうはどんなに細かいことでも書けるんです。細かい心の動きとかね、森のこう微妙な光の関係とかね、そういうの書けるのが作家として認められるわけです。そういうことを書ける人が……。

 昔話は、そうじゃありません。昔話は耳で聞いてきました。一回きりです、耳で聞くってことは。待ってくれっていうわけにいかないんです。あすこもう一回っていうわけにっちゃいかないんですね。ということは、昔話は耳で聞いてわかりやすい単純明快な文体を獲得してきた、と言えます。単純明快な文体を獲得してきた。長い伝承だよね。

 ただ、文体って言葉を使うとどうしても、文という字が入っちゃって、書かれたみたいに思うから講演会風景、僕は「語り口」といいます(ホワイトボードに「語り口」と書かれる)。「語り口」という言葉を使います。今日はこれで行きます、「語り口」。昔話は耳で聞いてわかりやすいいろんな単純明快な「語り口」を獲得してきた。獲得してきたという意味は、何百年も伝えられている間に、いつの間にか獲得した、そういう意味です。誰かが作ったんじゃなくて。で、今日はですね、その、ま、90分ありますけどね。まず前半は、その昔話の単純明快な「語り口」って具体的にどうなんだっていうのを、実例でお聞かせしようと、僕がひとつ語りますからそれを聞いてください。で、それを使ってやります。後半は、今日のメインテーマである、子どもの問題。

 昔話ってのは、大事なメッセージは僕は3種類あると確信しているんだよね。

 ひとつは、子どもが成長する姿なんですよね。昔話のメッセージは、第1は子どもが成長する姿。

  2番目は人間と自然との関係。特に日本の昔話は、それが大事なんですよね。人間と自然の……。

  3番目は人間の命とは何か。人間だけじゃなくてね、動物の命とは何か。

 だけど、これ3つはとても出来ませんので、今日は子どものテーマに絞ってお話ししたいと思います。

 で、まず最初ですけど、その簡単明瞭な「語り口」ってどういうことかっていうと、ひとつだけあります。宮城県のですね、登米郡というところにいらしたおばあちゃん、亡くなりましたけれど、彼女が語った、うまかたとやまんばの話なんですね。これ、息子さんの佐々木徳夫さんが、お母さんの話を書き取って発表したんですね。で、ぼくはそれを見たときに、もちろん宮城の言葉ですよ、それはね。聞いた時に、もう僕らの言ってる昔話の文法そのものなのね、ずばり。佐々木さんの了解をとって共通語に直して、語りに使ったり、あるいは絵本にもしました。


(つづく)

                 報告 |  講演録 | 2 | 3 | | 6