昔話は一方的じゃありません

 皆さんのなまの声、どう使うかなんですけど、ぼくはね、昔話が伝承されてきた形は、ほんとに大講演会 小澤俊夫氏事だと思ってるんです。昔話の語り手はですね、合いの手を打ってくれないと語れないんですよ。そういう調査を始めたころ新潟へ行って、黙ってまじめに聞いてたら叱られたのを覚えている。「合いの手を打って」というので、ぼくは「ふーん、ふーん」て聞いてたら、また叱られてね。「ふーん、ふーん」とは、この辺りではね、相手の意見をばかにしたときに使うと言われちゃった。じゃ、なんて言うのかと聞くと、「そうさ」って言うって。新潟だよ、これはね。地域限定ですよ。周りにいた子どもたち、「そうさ」って言ってたよ、確かに。「そうでございます」みたいな意味らしいんだ、「そうさ」っていうのはね。

 とにかく、語りは、合いの手と一緒です。ストーリーテリングやる方、語り部の方いっぱいいると思うんですけど、どうぞお気をつけください。人が語っているときに、必ず自分で相槌を打つこと。それから、子どもたちにも、相槌うっていいんだよっていうこと。子どもはね、静かに聞きなさいって教えられているから、声を出してはいけないんだと思っている。それは逆。合いの手を打ちなさい。その習慣をつけたほうがいいと思うよ。

 合いの手を打つってどういうことかというと、そこにコミュニケーションがあるわけでしょ。相手とのね、つきあいがあるんだ。それが大事なんだよ。昔話というのは一方的に聞かされるものとは、ぼくは思わない。相手からも応えてもらうんだ。その両方が必要です。とっても大事です。昔話は一方的じゃありません。その点、ストーリーテリングやってる方、気をつけてください。共通語でやると、ました、ました、ましたになるでしょ、文が。だからああいうとき、合いの手は、とっても入れにくいんですよ。でも、入りますよ、その気になれば。そういう習慣をなるべくつけてください。それは、人と人を結びつけるから。

 

平和な日本への大人の責任

昔話が語る子どもの姿 最後にね、ぼくはいま大人やってる人間が、これから育っていく子どもたち、あるいはもっと後の子どもたちに対して、責任を持ってると思うのね。だから、いまみたいに、なまの言葉で子どもとやり取りしてくださいって言ってるわけ。だけど、もっと言えば、そのためには、日本が平和でなければいけません。これはもう、はっきりしてる。どんなに良いお話を語ったって、戦争が始まったら終わりだよ。

 はっきり言わせてもらうんだけど、いま日本はものすごい危険なところへ来ました。皆さん知っていると思うけど、ほんとに危険な時代。ぼくは昭和の初めに生まれた人間だから、ずーっと知ってんだけれどね、昭和の初めの、あの軍部が力を伸ばしてきた時代といまはとても似てます、状況が。既に言ってるでしょ、何とかという大臣が、放送の内容に問題があったら電波を規制する可能性があるって言いだしたでしょ。もう、あれは昭和のはじめと同じ状態だよ。斎藤隆夫って人がね、1940年(昭和15年)2月2日に帝国議会で演説してんですよ、反軍演説って有名なんだけれどね。それで追放されたんです。国会議員くびになったんです。もう、その状況とおんなじことです。

 どうぞ、皆さん気をつけてください。そして、この戦争ってのはどういうことなんだって。ぼくは戦争中、火薬作ってました。中学生として、勤労動員でね。ぼくらが作った火薬で特攻隊が行ったんですよ。特攻隊用の火薬作らされたんだ。知覧基地、九州のね、知覧基地から特攻隊が乗って使う火薬をぼくらは作ってました。僕らが作った火薬で何人もの子どもが、日本人も死んだし、アメリカ人も死んだと思うんだ。ですから、ぼくは強力に戦争に反対です。

 

治安維持法とぼくの家庭

 ぼくのおやじって、あの東條軍閥に反対の人だったものだから、北京にいる間は、特高警察が毎日うちへ来てました。それから追放されて、日本へ帰ってきて立川にいたんですけど、高木っていう特高課長が毎日うちに来てた。治安維持法ってそういうものよ。拒否できないんです。毎日うちにいるんだぜ。あらゆる会話聞いてんだよ。電話から何から、全部聞いてんですよね。余計なこと言うと、うちのおふくろなんか平気なもんでね、いっしょにごはん食べさせたりなんかして、親しくなっちゃってんですよね。余計な話だけど。

 それともうひとつは、おやじの名誉のために言っとくと、特高課長がね毎日来てたんですが、でも平気でうちのおやじはその東條軍閥、軍部の横暴を批判してたんですよ。そんなだったんです、最後まで。敗戦になったでしょ、で何年かたって、おやじが死んだとき新聞広告が出た。お葬式が終わった3日後かな、その高木って特高課長から手紙がきましてね。「わたしは戦争中、職務上おたくを訪問していた特高課の高木でございます。当時、ご主人の話を聞いて、この方こそ真の愛国者だと感銘を受けておりました」って手紙だったんだ。ぼくら泣いたよ。その手紙とっておけばよかったんですけどね。もう混乱の中で失くしちゃったんですけど、そういうことがありました。それは余計な話だけど。

 とにかくね、治安維持法が決められたらもうどうしようもないです、今の日本の言葉でいうと、緊急事態法。憲法を変えて、緊急事態条項だけは入れようとしているんですね。それは、治安維持法です。もう全く自由無くなりますよ。ですから、どうぞみなさん、次の参議院選挙(2016年7月)、お友達にいってですね、なるべく、護憲のはっきりしている方に投票してください。

 どうも、長い時間のご清聴、ありがとうございました。

おわり

(構成・池田加津子、協力・東條真由美)

         報告 |  講演録 | 2 | 3 | | | | | おわり