主催:NPO法人「絵本で子育て」センター
2016年2月21日(日)14:00~15:30/芦屋・ラポルテホール
塚原真弓

 

報告:塚原 真弓 (芦屋11期)

  寒いながらも少しずつ日脚が長くなり始めた2月下旬、NPO法人「絵本で子育て」センター主催に講演する小澤俊夫氏よる、小澤俊夫氏の講演会「昔ばなしと子ども」が、芦屋のラポルテホールにおいて開催されました。

 150あまりの座席はみるみるうちに満席に。小澤氏の人気の高さに驚かされました。池田加津子さん(理事・芦屋2期)の司会でスタート。初めに森ゆり子理事長のご挨拶がありました。
「絵本講師・養成講座」の講師を小澤先生に依頼したところ、日程の調整がつかずに断念。しかし1日講座なら、とのお話があり今日の講座開催の運びとなったそうです。続いて池田さんが先生のプロフィールを紹介されました。

 小澤俊夫先生は、1930年生まれ。口承文芸学者、筑波大学名誉教授。小澤昔ばなし研究所所長。「昔ばなし大学」主宰。口承伝承による昔ばなし研究の第一人者で著書も多数あり、2007年にはヨーロッパ・メルヒェン賞を受賞されています。次男はオザケンことミュージシャンの小沢健二さん。またこの講演の数日前には、世界的な指揮者である実弟の小澤征爾さんが、グラミー賞を受賞されました。

 いよいよ先生の登壇です。開口一番「昔話はどこにありますか?」と問いかけられ、一瞬頭に?が浮かびました。「昔話が本当にあるのは、それが語られている時間のあいだだけ。語り終わったら消えてしまう。音楽の演奏と同じです」と先生。

講演する小澤俊夫氏 なるほど昔話の真骨頂はこれだと納得です。昔話は「時間に乗った文芸」、耳で聞くものだから待ってはくれない1回限り。そこが目で読む文学との大きな違いです。また昔話では3つの大事なメッセージが語られています。1、子どもの成長する姿 2、人間と自然との関係 3、人間の生命とは何か。そして最大の特徴が、「単純明快な語り口」であるということ(文体ではなく語り口という)。そして様々な法則「文法」があることがわかりました。

 例として宮城県に伝わる昔話「馬方とやまんば」を語り聞かせてくださいました。穏やかな声が静かな会場に心地よく響き、ゆっくりと心に沁み込んできました。馬方が山中でやまんばに出くわす情景がくっきりと浮かんできます。

 子どもにお話を聞かせる第一の意義は、言葉から絵に変換する力<想像力>を養うことです。昔話は登場する人物や道具を「孤立的に語る」といいます。馬方もやまんばも一人ずつ。これは大勢よりも想像がしやすいからで、「一対一の法則」という世界共通のものです。そして「極端に語る」ものでもあります。やまんばの凄まじい大食漢ぶり。色もつねに原色で、白・赤・青・黒がほとんど。しかし極端には語るけれど決して立体的には語らない。切り紙細工のように平面的です。「残酷」な場面は多いけれど、それを決してリアルには語っていません。このことが理解されていないために、昔話は残酷だと敬遠されてしまうことがある。

 子どもと大人とでは感受性が違う。子どもは自分を主人公に重ね合わせてお話を聞いている。途中で怖いことや試練があっても、最後に主人公が幸せになればそれで万歳なのです。最後の幸せとは、1、主人公の身の安全 2、富の獲得 3、結婚、のいずれかです。大人の理屈で子どもの感受性を邪魔してはいけない。また昔話は「同じ場面は同じ言葉で語る」という大事な法則も持っています。ほとんどが3回の繰り返しを同じ言葉で語っているのです。

 例えば『白雪姫』(グリム童話53番)で、白雪姫は3回殺されているということ(紐、櫛、りんご講演する小澤俊夫氏)。多くの人がりんごだけと信じているのは、ディズニーの出鱈目な話のせいと一蹴し、『白雪姫』の3回の繰り返しを図解してくださいました。リズムで表すと、紐と櫛が同じ長さ(2小節ずつ)、最後のりんごが一番長くて重要(4小節)、これを「Bar Form」(バーフォーム)と呼ぶそうで、人間にとって最も自然なリズムのようです。音楽に造詣が深い先生ならではの解釈だと感服しました。

 また子どもはすでに知っているものに再び出会いたがるものです。お気に入りのお話には何度でも出会わせてあげたい。『三年寝太郎』のお話から、昔話は道徳を気にせず、強く生きろというメッセージを発信しているものだということも知りました。寝太郎は初めのうちにたっぷり寝たからこそ、あとでいい知恵が出せた(悪知恵も知恵のうち)。そして一生寝ていたわけではなく、途中で起きた。子どもは変化するもの。子どもの成長を如実に表しているお話です。

 そして『シンデレラ』(グリム童話21番『灰かぶり』)のお話へと繋がっていきました。実母の墓に行ったシンデレラはそこで白い鳥から、美しい洋服を貰います。白い鳥は死者の魂の化身、すなわち亡き実母です。シンデレラは3回舞踏会へ行きますが、2回は断わって帰っています。なぜ2回断わって帰ったのか?それは思春期の揺れ動く気持ちそのものなのです。シンデレラという振り子が振れている。

 子どもには揺れる時期が必ずあり、反抗期には反抗をして、生きる力をつけることが必要。振り子のように行っても必ず戻るから、親は待つことが大切で一緒に揺れてはいけない。生きているものはみな、形式意思を持つ。子どもも自分はこういう人になりたいと思い描いている。時々自分の本当の美しい姿になりたいと思うもの。

 大人が子どもにしてやれることは、思春期の3つの自覚を持たせること。1、愛されている 2、 信頼されている 3、自分の価値が認められている。この3つが大切。現代の日本では親から子への「~すべき」という規制が強すぎる。メディアの影響力も心配。昔話を語るときには、合いの手(相槌)が必要でそれが大事なコミュニケーションだということ……。長い教師生活の経験に基づいたお話には説得力があります。子育てに必要なことが沢山詰まったお話の数々、そして3がキーワードであることもわかりました。

 きりがないと言いながら次々に昔話が口をついて出てきます。気が付けばあっという間に終了の時間。もっとお話を聞いていたいと名残惜しさでいっぱいになりました。

講演会風景  最後に先生は、「どんなに昔話が良いと言っても、世の中が平和でなければ何にもならない。絶対に戦争をしてはいけない。今はとても危険な状態だ。選挙の時はよく考えて投票してほしいと話されました。私たちは次代を担う子どもたちへの責任があります。戦争をする国にしてはいけないということ。

 そして、子どもたちに「本物」のお話を伝えること。そのためには私たちが本物を知らなければなりません。本物を知る勉強をすること。それを心に刻んで会場をあとにしました。帰宅途中冷たい雨が降り出しましたが、心の中には温かいものが満ち溢れているのを感じていました。
(つかはら・まゆみ)

※講演録の詳細は下記の講演録リンクからご覧いただけます。

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