一日半歩

大人は勇気を伝えているか?

 人として地域や社会で生きていく上で何が大切かを、子どもたちへ真摯かつ誠実に伝えていく必要があるのではないだろうか。我々大人は、そのためにこそ、もっと時間を使うべきだと思う。では、具体的に何を伝えるか?〈前号より〉

 子どもたちは「勇気」という言葉を知らない。私はここ数カ月、小中学校の読み語りで、『勇気』(バーナード・ウェーバー/作、日野原重明/訳、ユーリーグ)という絵本を読んでいる。小6のクラスで、私は読み語りの前に児童らに聞いてみた。すると、「勇気」という言葉を聞いたことすらない者が、実に6割を超えるのである。「勇気」の意味をほぼ正しく答えられた者は、なんと1割に過ぎない。
 この絵本は、「ちっちゃい弟を、誰にもいじめさせないのも勇気」とか、「別れなければならないときには、さよなら言えるのも勇気」とかいうふうに続いていく。私が読み始めると、その都度、子どもたちは「へー」「へー」という合いの手を入れてくる。これは明らかに、TV番組「トリビアの泉」の影響である。「ちゃかす」「からかう」ことでコミュニケーションをとろうとする、今の子どもたちの大きな特徴でもある。しかし、絵本の後半にさしかかるころには、教室はし〜んと静まりかえってしまう。それは、「周りのみんながすごく真面目にしているとき、突然面白い話を思い出しても、くすくす笑ったりしないのも勇気」あたりからである。子どもたちにも、「勇気」の深い意味がきちんと伝わるのである。
 私が21世紀を担う子どもたちへ伝えたい思いは、4S2Y(誠実、責任、信頼、正義、やさしさ、勇気)という言葉に凝縮している。しかし、子どもたちは「やさしさ」以外の言葉を知らない。いや、少なくとも使えない。なぜなら、我々大人が「やさしさ」以外の4S2Yを子どもたちの前で使っていないからである。明らかに、それは大人の責任である。
 我々大人は、生きていく上で、この4S2Yがいかに大切かを知っているはずである。そして、子どもたちにそうあってほしいと願わない親はいないだろう。ならば、それを伝える努力をしよう。それは、子どもとの対話の中で意識して使えばよいだけである。
 私が中3のとき、「誠実・責任・勇気」がクラス目標だった。担任教師は、「私は、誠実・責任・勇気を大切にしたい」というように、毎朝のホームルームで欠かさず口にしてくれた。クラスで揉め事があると、これらの言葉で叱ってくれた。我々生徒たちは、「誠実・責任・勇気」を常に意識して学校生活を過ごし、それは今でも皆の心に間違いなく生きている。
 絵本の読み語りを終えて、6年生を前に「勇気ってわかった?」と聞いてみた。すると、1人の女の子が手を挙げて、こう答えてくれた。「最高の愛だと思います」。すぐさま周囲の児童から嘲笑が巻き起こる。私はすぐさま、「おじさんも、そう思います。そうだね、正しいと思うことを発表することも勇気。そしてその勇気を皆でたたえることも、また勇気。こうしてみると、勇気を示すべき場は君たちの日常にいくらでもあるね」とフォローした。
 この絵本は、「勇気」こそ4S2Yの全てを統括する言葉であることを伝えている。すなわち、「勇気」とは、まさにその「最高の愛」だということを……。

「絵本フォーラム」31号・2003.11.10

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