こども歳時記
〜絵本フォーラム第33号(2004年03.10)より〜
春の言葉を聴いてみませんか
  寒く厳しい冬が過ぎていきます。子どもとの散歩道、ある家の玄関先に置かれたプランターが目にとまりました。小さなかわいらしい芽が、柔らかな緑色になり背伸びをしています。春を見つけました。子どもと顔を見合わせ、ほほえみます。温かな気持ちになりました。今はまだ冷たい風が、柔らかく暖かなものに変わる日ももう間近のようです。

『はなをくんくん』
(福音館書店)
 春の訪れに心躍らせるのは人間だけではありません。動物たちも暖かな春を心待ちにしているでしょうね。『はなをくんくん』(ルース・クラウス/ぶん、マーク・シーモント/え、きじまはじめ/やく、福音館書店)は、そんな春の気配を感じさせてくれるすてきな絵本です。雪の積もる冬の森に眠る、のねずみ、くま、かたつむり、りすにやまねずみたちが何かのにおいをかぎつけます。はなをくんくんさせながら集まってきて、小さな黄色い花を見つけて喜び、踊りだします。
 冬の寒さを耐え抜いたからこそ、春という暖かな響きに心を躍らせてしまうのかもしれません。五感をフルに使って、あなたの近くにある春を見つけてみましょう。そして、そのとき感じた気持ちを言葉にして、子どもたちと話してみましょう。子どもたちもまた、心の中に蓄えてきた言葉で、私たち大人では感じることのできない春を、目を輝かせて教えてくれるかもしれません。そんな言葉を聴いてみたいと思いませんか?
始まりの季節に、成長を振り返って
 子どもが小学校へ入学したとき、「わが子への手紙」という親への宿題が出されました。「生命の大切さを伝えるために」というテーマが前提です。出産から今までのことが走馬燈のように思い出されます。改めて思い返すと親のためになるなぁと思いながら、手紙を書きました。
 皆さんの子どもが生まれたときの気持ち、日一日と成長していくときの喜びを覚えていますか? そんな日々をお父さんの視点から描いた本があります。『ぼくがあかちゃんだったとき』(浜田桂子/さく・え、教育画劇)。“ぼく”の6歳の誕生日、生まれてからこれまでにどんなことがあったのかを、お父さんが話してくれます。その中で、“ぼく”は生きる勇気を与えられていきます。
 自分がどんなに大切にされ、どんなに多くの人々に支えられ大きくなっていったのかを子ども自身が知ることで、素直に愛情を感じることもできるのではないでしょうか?
 「私が小さかったときの話をして」とあなたの子どもに言われたら、それはまたとないチャンスです。あなたはわが子に何をどう伝えますか? 生まれたときのこと、成長の節目で大変だったこと、何でも構わないのです。あなたの言葉で心を込めて、熱く子どもに語ってください。きっとその子に勇気と生きていく力を与え、強い心の支えが生まれることと思います。
 この春は、子どもの心の中に春の芽生えを促す会話をしてみませんか?

『ぼくがあかちゃんだったとき』
(教育画劇)

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