こども歳時記
〜絵本フォーラム第37号(2004年11.10)より〜
早期教育がもたらすもの
 日本人は「英語」が大好きです。英語を話すことに憧憬さえ抱いているように思われます。それにもかかわらず、日本人ほど「英会話」が上手でない国民は少ないと言われています。それは、島国という地理的なことも関係しており、日常生活に必要性がなかったからにほかなりません。

『異文化に暮らす子どもたち』
(金子書房)
 現在、生まれたばかりのわが子に、起きているときは英語のビデオ・テレビを見せ続け、寝ている間には耳のそばで英語のカセットテープを回し続けるといった「超早期教育」的育児をしている母親、家庭がたくさんあるということです。早期教育の効果は、いまだ科学的にはっきり証明されてはいないのに、です。以前は「幼稚園からでないと遅すぎる」と言われていたのが、今では「幼稚園では遅すぎる」と、早ければ早いほどいいというような風潮が定着してきた感があります。早期教育の背後に潜んでいる恐ろしい弊害については、あまりにも無頓着のようです。
 『異文化に暮らす子どもたち ことばと心をはぐくむ』(早津邑子/著、内田伸子/監修、金子書房)は、アメリカ・ニューヨーク市で日本語によって日本文化に親しむ保育を続けてきた「こどものくに幼稚園」の園長先生が、異文化圏で育つ子どもたちの姿を描いた貴重で感動的な報告です。海外で苦悩しながら子育てする多くの保護者の体験談も紹介されています。
 読了すると、英語の早期教育が何をもたらすのかが鮮やかに浮かび上がってきます。乳幼児への過度な働きかけは、もともと刺激に敏感な脳のオーバーロードとなったり、親の「早期教育」への期待は身体・精神的ストレスとして蓄積し、情緒障害や親子関係の亀裂まで引き起こす例が報告されています。
あるがままを受け入れてあげてください
 震災前には、「勉強しなさい、勉強しなさい」と親から言われ続けていたのに、震災後は一切言われなくなったという神戸の中学生がいました。「生きていてくれさえすれば」というように親が変化したのです。
「あなたが生まれてくれたから、お父さん、お母さんはこんなに幸せなのよ」
「あなたがいてくれるから、毎日が楽しいんだよ」
 お子さんが生まれたときのことをもう一度思い出してください。『かみさまからのおくりもの』(ひぐちみちこ/さく・え、こぐま社)は、そんな気持ちを思い出させてくれる1冊です。お子さんがいくつになっても、読んであげてほしい絵本です。(森)

『かみさまからのおくりもの』
(こぐま社)

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