こども歳時記
〜絵本フォーラム第40号(2005年05.10)より〜
子どもの第五感を精一杯働かせて
 松居直氏は著書『絵本のよろこび』(日本放送出版協会)の中で、レイチェル・カーソンの次のような言葉を引用してます。

 「わたしは、子どもにとっても、どのようにして子どもを教育すべきか頭を悩ませている親にとっても、『知る』ことは『感じる』ことの半分も重要ではないと固く信じています。子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生みだす種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです」

 そして、氏は次のように言葉を続けておられます。私たちはややもすると、子どものうちに、“良い土地”を耕さないで種を蒔いているのではないでしょうか。それも、蒔くのではなく、蒔きちらしているように思われます。実は絵本は、子どもの内面に“良い土地”を耕すことに深くかかわっているものです。“感じる”ことこそ良い土地を耕す力です、と。

『絵本のよろこび』
(日本放送出版協会)
 人は赤ちゃんのときから五感を精一杯働かせています。お母さんのおなかにいるときから、お母さんの心臓の音を聞きながら成長していきます。生まれ出てお母さんの声を聞き(聴覚)、お母さんの顔を見つめ(視覚)、お母さんに抱っこされ(触覚)、おっぱいをもらい(味覚)、お母さんのにおいをかぎながら(嗅覚)、五感をいきいきと働かせているのです。
 そして、そのとき周りの大人からあふれるほどの言葉をかけてもらうことによって、自分に向けられる言葉の一つ一つに意味があることを理解したり、あるいはその言葉に含まれた愛情を感じ取ることができるようになるのではないでしょうか。そうしていくことで、物事をいきいきと感じるような感性を育てていき、やがて、他人の痛みやつらさや悲しみを理解する心を育てるのだと思います。絵本を読んでもらうことで先行体験をしたり、追体験をしたりしたながら、実際に体験することをより深いものにしているのです。けんかに負けたときの悔しさ、転んでひざ小僧をすりむいたときの痛さ、迷子になったときの心細さ、とうとうお母さんを捜し当てたときのうれしさ、公園を思い切り走り回る爽快さ、そういった体験こそが子どもの心を育てていくのだと思うのです。
 そうやって五感を精一杯働かせていけば、第六感が育ってくるのだそうです。第六感とは、「鋭く物事の本質をつかむ心の働き」のことです。お子さんの第六感を育ててあげてください。
 ワクワク、ドキドキ、ハラハラ、ホッとしたり、びっくりしたり、うれしかったり、悲しかったり、怖かったり、安心したり、泣いたり、笑ったり……。絵本は子どもから大人まで、さまざまなことを感じさせてくれますよ。(森)

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