バナー
報告者
芦屋5期生
小和野 啓子
第4編   〜 絵本講座の組み立て方 〜
2009年11月28日(土) 家の光会館
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・ほるぷ出版・理論社
特別協賛:ラボ教育センター

 師走前とは思えないほど暖かな 11 月 28 日、前回に引き続き新宿区飯田橋の「家の光会館」で第 6 期「絵本講師・養成講座」(東京会場)第 4 編が開催されました。

 今回は数多くのロングセラー絵本を出版されている、こぐま社社長・吉井康文氏の講演です。
「長く読み継がれてきた絵本の秘密」という演題で、絵本の歴史やその変遷の過程で生まれた数々の絵本を紹介してくださいました。

 絵本は 1658 年にコメニウスによって出版された『世界図絵』がその始まりとされ、数々の絵本が出版され読み継がれてきています。でも、なぜ絵本はベストセラーではなくロングセラーになるのか? 子どもの世界は変化しているのに同じ絵本が世界中で読み継がれるのはなぜなのか? という問いかけの答えを、そのお話の中からみつけることとなりました。

 『ぼうぼうあたま』( 1844 年)『ちびくろサンボ』( 1899 年)『ピーターラビット』( 1902 )年など、徐々に私たちにもなじみのある絵本の名前があがり、はじめての男性作家による絵本『かしこいビル』( 1926 年)の紹介で、絵本の基本であり本質でもある「絵本はめくらないと読めない、次はどうなるの?の繰り返し」というストーリー展開を実感しました。これが子どもを絵本に惹き付ける基本的な要素なのだと納得しました。

 その後、『 100 まんびきのねこ』( 1928 年)、『おかあさんだいすき』( 1932 年)、『はなのすきなうし』( 1936 年)、『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』( 1937 年)、『げんきなマドレーヌ』( 1939 年)と今でも私たち、子どもたちが読み続けている絵本が紹介されます。

 『ひとまねこざる』( 1947 年)もいまでも読み継がれているロングセラーの絵本ですが、この本が 1953 年に日本で初めて出版された時には「スパゲッティ」は「うどん」、「レストラン」は「食堂」と訳されていたというお話も、とても興味深いものでした。

 日本では 1945 年以前には絵本というものはなかったということですが、これは日本において昔話はいずれも「まず文章ありき」で、それに絵をつける発展の仕方だったため『かしこいビル』のような本来の絵本がもつページをめくる面白さやワクワク感に欠けるものだったとのことです。

 それを 1960 年頃から「絵本は絵で展開するのが基本」として絵本らしい絵本を日本で初めて出そうとされたのが福音館書店の松居直さんだったということです。

 また当初、日本の絵本には制作上数々の制約があり、例えば「既成の本棚収まるように」大きさが制約され、日本語本来の縦書きにならったため、ページをめくる方向が横書きの原書とは逆になるということがあり、そのために元の絵本とはおもむきの違うものだったようです。

 絵本の紹介は『おやすみなさいのえほん』( 1943 年)、『もりのなか』( 1944 年)、『ぼくのにんじん』( 1945 年)と続き、『もりのなか』では、その各ページにある木には必ず「うろ=洞」があること。その「うろ」は何を意味しているのか? また、表紙のパレードの絵の木には「うろ」はなくて、一見同じ絵に見えるおはなしの中のパレードの絵には「うろ」があるのはなぜ? という興味深い問いかけもされ、その答えをそれぞれがみつけるのも、面白い読み方だと思いました。

 最後に吉井氏は長い年月残っている絵本には大人が忘れかけている真理があり、子どもはその絵本の世界に自由に出入りできる。大人は文字を読むけれど子どもは文字を知らないから絵を読む。だから文字が読めない子ども時代にしか育たないもの、文字が読めないからこそ得られるものがある。そして文字を覚えてから「読む」ことと、文字を知らずに「読んでもらう」ことには大きな違いがあるとお話しされました。

 子どもが気に入った絵本を繰り返し持ってくるのは、そのお話がどんなに波乱万丈でも、最後には安心できる場所に戻ってくる「行きて戻りし物語」であることを子どもが知っていて、安心できる場所で安心できる声でそのお話を聞きたいというのが「子どもの想い」であるとのこと。その想いを叶えてくれるのが「長く読み継がれてきた絵本」なのだというお話で私たちは子育てをしているお母(父)さんにもそのことを伝えたい、伝えなければ、と改めて強く思いました。

 午後は藤井専任講師から改訂された岩波書店の国語辞典(第七版)にはじめて「読み聞かせ」が収録されたとの報告がありました。これは「読み聞かせ」という言葉が誕生して約 40 年の歳月を閲(けみ)しているとのことです。

 また、朝日新聞の「赤ちゃんポスト」( 11 月 27 日)の記事に関連して「大人の定義」ということでのお話があり、講師としての心得にもそのお話は及び、いつもながら身の引き締まる思いで、思わず姿勢を正したのは私だけだったのでしょうか。

 その後、いつもの 7 つのグループに分かれてのグループワークとなりましたが、今回の課題からいよいよ実際に絵本講座を開くことをイメージすることが求められるので、話し合いの内容も益々盛り上がっていたようです。

 リポートの締め切りが 12 月 25 日ということで、皆さん、心穏やかに年末・お正月を迎えられるように課題に取り組まなければ…と思いながら帰路につかれたことと思います。(おわの・けいこ)

★芦屋会場リポート 第1編/第2編/第3編/第4編/第5編/第6編
★東京会場リポート 第1編/第2編/第3編/第4編/第5編/第6編

第3期リポート はこちらから ★ 第4期リポート はこちらから ★ 第5期リポート はこちらから
第6期リポート  ★ 第7期リポート はこちらから ★ 第8期リポート はこちらから
 ★ 第9期リポート はこちらから ★ 第10期リポート はこちらから

絵本で子育てセンター