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報告者
芦屋7期生
弓立 瑶子
第4編 〜絵本講座の組み立て方〜
2011年10月29日(土) ラポルテホール
主催:NPO法人「絵本で子育て」センター  共催:ほるぷフォーラム社
協賛:岩崎書店・偕成社・金の星社・こぐま社・鈴木出版・童心社・福音館書店・ほるぷ出版・理論社

 秋晴れのさわやかな空に見守られ、第8期 「絵本講師・養成講座」第4編は「絵本講座の組み立て方」と題して10月29日、芦屋ラポルテホール3階特設会場で開催されました。 

 開講に先立ち、去る10月13日(木)にお亡くなりになられた中川正文先生(当センター顧問)に全員で黙祷を捧げました。中川先生は児童文学作家、大阪国際児童文学館特別顧問であり、「絵本で子育て」センターが主催する当養成講座の講師も04年の開講時から毎年欠かさずご出講してくださいました。
本講座の第1編(4月23日(土)・芦屋ラポルテホール)では、「絵本は、親や教師が高みに立って子どもに与えるものではない。親と子が共に経験を同じくするもの、一冊の絵本を仲立ちにし、同じ平面で同じ感動を経験する。経験するだけでなく共に成長する、という大人と子どもと絵本の基本的な関係 」についてなど様々なこころに残るお話をユーモアたっぷりに語ってくださり、受講生一同深い学びの時をいただきました。お心やさしい中川正文先生への感謝の思いを込めて、ご冥福をお祈り申し上げます。

 続いて、午前の部の講師、浜島代志子先生を壇上にお迎えしました。
浜島先生は松戸市在住、劇団天童を主宰され、絵本の読み語り、人形劇からミュージカル等意欲的に活動をされています。今回は、「読み語りの楽しさ(実演)」と題して楽しく熱いトークが繰り広げられました。 
はじめにこの度の震災にふれられ、復興して行く道筋に絵本が必要なこと、絵本は全ての心情を作る基本であることを、東北の方々のもとに何度も足を運ばれたご経験をもとにお話ししてくださいました。
福島の方々の、毎日放射線量を測定することの大変さ、心の不安や赤ちゃんのミルクの水不足など、その地に暮らす人々の苦悩や混乱を肌に感じられたからこそのお話しでした。

 絵本を生の声で語ること、その絵とことばは心の食事となって人々を支えるはずとおっしゃいます。今はたいへん過ぎて、心が受け付けない、聞く耳を持てない人にも、心の食事となる絵本の絵とことばが、辛く疲れた心に寄り添い、励まし、勇気づける時がくるでしょう。そのために、同じ心情で語らせていただく、読ませていただく気持ちで絵本の力を伝え続けていくことが大切だと……。
人生に大切なことば、国語の力は幼児期からの絵本の読み聞かせによって育まれ、やがてお話を心情で理解することができていきます。先生は物語が人の苦しみや悲しみを乗り越える力となる、信じられる社会が絵本の中にあり、お話の中に目に見えない大切なものが見えてくる、心弾む楽しい気持ちを体験することが生きる力につながると教えてくださいました。
また、『タニファ』(ロビン・カフキワ/著 浜島代志子/訳、コスモトゥーワン)、『太陽へとぶ矢』(ジェラルド・マクダーモット/著 神宮輝夫/訳、ほるぷ出版)の読み聞かせを通じて受講生とのやり取りを楽しむ場面等もあり印象深い講座となりました。

 午後の講座は、「絵本で子育て」センター理事長の森ゆり子による講座「絵本で子育て」(絵本講座実演)を受講しました。
はじめに『ちびゴリラのちびちび』(ルース・ボーンスタイン/さく  いわたみみ/やく、 ほるぷ出版)の読み聞かせで始まった講座、何度聞いてもホッとする絵本です。そこから、読み聞かせの注意点、絵本の中の絵の大切さ、文字が表わすことばについてのお話です。
そして、『いないいないばあ』(松谷みよ子 あかちゃんの本  瀬川康男/え、 童心社)を通して、赤ちゃんの心の育ちについて、光と闇、別離と再会、子どもの感情が対(つい)になって育つこと、不安と安心のくり返しから自尊感情、自己肯定感などが育っていくお話を、また、『三びきのこぶた』 (イギリス昔話 瀬田貞二/訳 山田三郎/画、福音館書店)や、『おおかみと七ひきのこやぎ』 (グリム童話 フェリクス・ホフマン/え せた ていじ/やく、福音館書店)などを参考に、お話の結末に訪れる安心感、恐れが消え去ることの大切さを重視する点をお話されました。もちろん怖がる子どもに無理に読む必要はなく、時を待って読む機会を得たらよいのです。

 今、日本にはつらい気持ちで育つ子が多く、競争的な教育制度のために休む間もない環境に置かれています。そこで、この絵本を読んでくださいました。『いいこってどんなこ?』(ジーン・モデシット/文 ロビン・スポワート/絵  もき かずこ/訳、 冨山房)。
子どもをまるごと受け入れて、愛する気持ちを伝えます。愛を伝える五つの方法は、「ことば」、「スキンシップ」、「同じ時間を過ごす」、「心のこもったプレゼント」、「子どもが求めていることに応えてあげる」。よい絵本を読み聞かせることは、それらをすべて満たしているのではないでしょうか。

 『ももたろう』(松居 直/文 赤羽末吉/画、福音館書店)など、成人式を迎え30版を重ねた絵本は子どもの心を育む内容、ことば、絵の力でしっかりと描かれているよい絵本です。
また、『くだもの』(平山和子/さく、福音館書店) のような絵本からは日常生活に丁寧なことばを遣うことがお互いを尊重する喜びと知り、ことばが人間を支配する一面を確認しました。
心をこめて読む、大好きな人がただ読んでくれることがいかに子どもにとって喜ばしく、お話を楽しむ気持ちを共有できた感動が体験として心に刻まれていくのでしょう。小さな頃から親しんできた一冊の絵本が思春期の不安定な心を抱える少女の命を救うこともある、絵本の持つ力と読み聞かせによる喜ばしい記憶が心のアルバムとして心の奥深くに光り続けているのです。

 本講座の講師でもいらっしゃる松居直氏が、10年間我が子に読み聞かせたことについて、「自分より優れたことばと絵までつけて、絵本は人として伝えなければならないこと、例えば人とは、正義とは、友情とはなどの全てを伝えてくれた 」とお話されたことに触れられて、息子さんの松居友氏の『絵本は愛の体験です。』(松居 友/著、洋泉社)から一節をご紹介されました。≪お話を語ることは人生の灯台に日をともすこと、読み聞かせの温かい思い出が、成長過程で、大人になっても人生の節目に出会う困難を乗り越える力となり輝き、励まし続ける……≫、というお話は心に深く残るものでした。

よいことばは、深い思考や人格を育てます。絵本の中でゆっくり絵を見ながら知らないことばを理解していく、知識と情報だけの無機質のことばではなく、心の育ちを伴うことばの獲得が大切だということです。
テレビやメディアが子どもに与える影響にも言及されて、静かな心のこえのやり取りや思考、自分はどう生きるかという内面の思考、心をゆさぶる、感動する気持ちによって心が育つことをお話していただきました。
最後に『すみれ島』(今西 祐行/文 松永 禎朗/絵、偕成社)の朗読を、一同目を閉じて聞かせていただきました。中川正文先生が講座の最後に必ず読まれたお話です。
「人は優しくありたいと願うものですが、世の中にはつらくて厳しい現実がある。身体の不自由な人の気持ち、繰り返される戦争など、目をそらしては生きられないことがあります。そうした現実や世の中の矛盾を、絵本を通して理解しようとすることがわたし達には出来るのです」。

お話の中に「人が生きるとはどういうことか」と身を持って示してくださった中川先生のお声が、森先生のお声を通して聞こえてくるようでした。

続いて藤井専任講師からは、今この時代、「自分達はどう生きたらいいか」と問われました。東京電力福島第1原発事故後の福島県は、県面積の半分は人間が住めない程汚染されていることや、脱原発の動きなどについて話されました。

それは読み聞かせと深くつながるものがあるのでしょう。どうすればよいか、それは状況により、また一人ひとりの個性によって変化することはあるかも知れませんが、家庭での読み聞かせや絵本で心を育てるためにこどもの心に寄り添うことを大切に、私達が日々自分で考えていかなければならないことだと改めて思いました。

最後のグループワークでは、講座の感想を話し合ったり、課題として持参した絵本を見せて紹介したり、次回の課題レポートに向けた疑問や提案、そして自分の身の回りの子どもとの日常、気づきなどについて積極的なフリートークが行われました。

秋の気配を身体いっぱいに感じます。朝晩の冷え込みと昼間の日差し、寒暖の差に体調を崩してお休みされる方もおられたのは残念でした。
次回は皆さまにお元気に再会できることを願いつつ、今日の学びを胸に抱えて会場を後にしました。(ゆだて・ようこ)

★芦屋会場リポート 第1編/第2編/第3編/第4編/第5編/第6編
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