遊びを仕事する

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遊具の安全性について−日本編−



 遊具の安全性が全国的に関心を集めるようになったのは、平成13年12月「箱ブランコ裁判」の内容がNHKなどのテレビニュースや、朝日、読売をはじめとした全国紙で報道されるようになってからのことです。東京地裁での第一審判決は原告側勝訴。つまり、被告である、遊具設置管理者としての市役所、実際に遊具を製作した遊具会社が負けたのです。
 それまでは、死亡に至るような大事故が起こっても、ほとんどの場合、遊具の製品としての安全性やその維持管理が問題となることはありませんでした。そして、遊具の事故は、子どもの遊び方、あるいは保護者(主に母親)の不注意が原因であるとされ、「使う側の自己責任」として片づけられていました。
 この事件は最高裁まで争われましたが、控訴審及び上告審では第一審判決が覆され、原告側敗訴という結果になりました。この裁判の経緯は報道等によって広く知られるところとなり、社会に大きな影響を与えました。
 遊具の安全基準については、「安全性」が強調されすぎると、その機能性、すなわちおもしろさがなくなってしまうという人もいます。しかしながら、これがきっかけとなり、国土交通省より「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」が出され、続いて、多くの遊具メーカーが会員として加入している社団法人日本公園施設業協会が「遊具の安全に関する基準」を作成し、平成15年4月より、公園はもとより、幼稚園、保育園の園庭遊具に対しても基準適用が要請されることになりました。
 この基準を詳しく説明するには紙面が足りませんが、その考え方の骨子は次のようなものになります。

イ、危険をリスクとハザードに分ける。
ロ、リスクとは、子どもが勇気を持って試みるような危険。
ハ、ハザードとは、子どもが気づかない、あってはならない危険。

 これを前提として、遊具製作会社や遊具設置管理者は、ハザードのない遊具を製作・設置しなければならないというものです。
 ただし、残念なことには、この基準はヨーロッパやアメリカの安全規格と違い、法的な強制力はありませんので、まだまだ不十分です。さらに問題なのは、平成15年3月以前に設置され、この基準を満たしていない公園遊具の中には、何の対策もされていないものがあるということです。
 そのような現状において、特に公園遊具を利用する子どもの保護者にぜひ知っていただき、実行していただきたい三つの重要事項を記載します。

1、遊具事故の約70〜80%が落下、転落によるものです。
 そのため、遊具の周りの地面が砂か柔らかい草地、あるいはラバーゴムマット、天然芝に近い人工芝(サッカー場に使われているようなロングパイルターフ)で覆われていることが必要です。さらに、安全範囲として、遊具建物支柱より1・5〜2メートル、そのような素材で覆われた空地が確保されていることも必要です。そうなっていない場合は、そこでは遊ばせないか、特に落下に注意させるようにしましょう。

2、動く遊具はおもしろく、人気がありますが、遊具が静止した状態では危険性の予測がつかず、子どもの体力や運動能力によってはハザードとなることがあります。
 そのため、まず保護者が実際に大きく揺すったり、速く回転させたりするなど、テストをしてから子どもに使わせるようにしましょう。

3、すべり台は非常に人気のある遊具ですが、事故の多いものです。そのため、次のチェックをしてから使わせてください。

イ、エンド(降りたところ)の砂地が掘られて固くなっていると、足の骨折や腰の打撲などの事故につながるので、ならしてから使うこと。
ロ、鉄やステンレス製のものは、夏などの日光の強い季節には滑り面が熱くなり、幼児がやけどをする危険がハ、ひもや鞄など、引っかかるものを身につけたまま使わせないこと。
ニ、滑り面が濡れているときはスピードが出すぎるため、使わせないこと。

 以上3点を保護者の方が注意されれば、大きな事故はほとんど防げます。実行されることをお願いいたします。

「絵本フォーラム」35号・2004.07.10


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