現場からの報告…4 「絵本フォーラム」25号・2002.11.10 |
「 朝 読 書 」で 変 わ る も の | 福岡県立糸島高等学校 |
8時40分、学校全体が朝の静けさにつつまれる。聞こえてくるのは、時折本のページをめくる音だけである。 本校(県立糸島高校・仲原英城校長)が朝読書を始めて今年で6年になる。朝読書は、近年小中学校を中心に多くの学校で実施されるようになった。福岡県全日制高等学校でも導入の動きがあり、14年4月の教育委員会の調査では111校中57校で実施されている。そこで本校での「朝読書」の取り組みの一端をご紹介したい。 実施に当たっての朝読書4原則
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本を読んでいるその時を、楽しく充実したものとして実感させるようにしている。 「朝読書」は生徒にとってどのようなものだろうか。本校で取ったアンケートを紹介したい。
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どの生徒の回答も似ているのには驚いてしまう。生徒がここに至る過程は様々であったと思う。学校全体として、取り組むには、やはり教師一人ひとりが生徒に対して、いかに読書へいざなっていくかにあると思う。生徒たちに「本を読む楽しみを知ってほしい。本と出会い、心豊かな人生を送ってほしい。すすんで読書する生徒を育てたい」という熱い思いこそがいつかは生徒を本に向かわせていくものであると思う。 最後に「朝読書」にまつわる事を思いつくまま記すことにしたい。 本校の始業時間は8時40分である。職員朝礼を終えて、教室に入る。生徒たちはすでに本の準備をしている。40分のチャイムで私も読書に入る。これが毎日の日課である。時には、職員朝礼が長引くなどして、朝読書の時間に間に合わないことがある。静かにドアを開けて入ると、生徒たちはすでにそれぞれの本の世界に入っている。顔を上げる者も少なく、彼らはマイペースで読み進んでいる。互いの無言の配慮がある。私は、この瞬間がとても好きである。 8時50分のチャイムはSHRの開始であり、読書の終了の合図でもある。起立の号令で一斉に立つわけだが、ふと見ると、名残惜しそうに本から目を離し切れない者もいる。続きが読みたいという気持ちがひしひしと伝わる。このときほど生徒がいとおしいと思うときはない。 |
読書は確実に彼らの心を捉え、少しずつ生活の中に浸透している。高校1年生の4月は、読書習慣がなかった中学生気分を引きずって来ている生徒が多い。「なぜ、読書を」「今まで読んだことはない。したくない」こういう気持ちから、「周りがしているから、仕方なしに」ときっかけは様々であろうと思うが、いつとはなしに読書の魅力に引かれていく。 文庫本を一心に読む者、卒業までに100冊の読破を目標にしている者、本の中で将来の目標を探し当てた者。彼らは大きく成長していった。10代後半という、人生の中で最も感受性の強い時期に、本に出会うことは、彼らの精神生活に大きな糧になることはいうまでもない。これまでまったく本と無縁であった生徒たちだが、いま彼らのカバンや机の中には読みかけの本が入っている。 6年目に入った「朝読書」の取り組みは、生徒の「心の育成」という本校の教育目標の一翼を担い、静かにそして確かな日々の歩みとなっている。糸島高校は、今年創立100周年を迎えた。 (糸島高校教諭・原田千賀子) |