絵本のちから 過本の可能性
★特別編★
「絵本フォーラム」26号・2003.01.10
絵本フォーラム20号〜25号で連載されました
「ぼくの“読み聞かせ教室”」番外編です。


↓ぼくの“読み聞かせ教室”はこちらから
ぼくの読み聞かせ教室
「ぼくの“読み聞かせ教室”」
が成功したわけ

松本 眞也(山口芸術短期大学非常勤講師)
振り返ってみると…

松本眞也  「連載ぼくの“読み聞かせ教室”」を終えて、少しホッとしていると言いたいところだが、全然“ホッと”なんかしていない。またまた2000字超の枠をいただいてしまった。毎回1000字の枠に縛られて欲求不満を起こしている“おしゃべりのぼく”への、編集者からの少し早いクリスマス・プレゼントだろうか。まあそれはいいとして、とりあえず「連載ぼくの“読み聞かせ教室”総集編」といった感じでまとめてみることにした。」

 最近、「失敗に学ぶ」ということが注目され始めて、あのノーベル賞受賞者の田中さんの談話が一段とその傾向に拍車をかけはじめているように思われる。大変結構なことである。その“向こうを張る”という大それた考えは毛頭ないが、「ぼくの読み聞かせ教室」が成功した要因はなにかということについて、自分なりの分析を行ってみた。
「古典童話」の面白さに魅了


 第1点は、本物で勝負したということである。イソップ、グリム、アンデルセン等時代の荒波を乗り越えて生き残った「古典童話」の面白さに、すっかり魅了されてしまった学生たちを目の当たりにするのは、まさに快感だった。『おおきなかぶ』『三びきのやぎのがらがらどん』『スーホの白い馬』等楽しい、悲しい、美しい絵本たちの呼びかけに心を揺り動かされる学生たちの姿を見て、本物のもつ偉大なパワーを再認識すると同時に、なぜか非常に勇気づけられたのであった。
 使用した本も良かったと思う。童話では、偕成社のシリーズを基本に進めた。表現のわかり易さ、面白さ、分量が、読み聞かせに最適で大変重宝したといってもいい。うまくいったのは、このシリーズに負うところが多いと感謝している。といって注文がないわけではないが。このシリーズをまず読んで、イソップでは、岩波少年文庫、グリムでは、岩波少年文庫の全文もしくは一部を読み聞かせた。イソップの岩波少年文庫は、原作に忠実な超簡潔な表現が総スカンをくらってしまった。グリムの岩波文庫は、翻訳されたのがぼくが生まれる前の年で、言葉づかい、言い回し、筋の展開ともに難解で、一度聞いただけではよくわからないという不満があった反面、面白いから本を買いたいとか、深入りしてみたいとかいった感想があった。ほんとうは恐ろしいグリム童話は、一部に拒否反応はあったものの、学生間でまわし読みされた。今年度も何件か予約が入っている。さる出版社の幼児向けのディズニー版には呆れてしまった。内容的によくない例として取り上げたのであるが、製本についても開くのに力を必要とし、机の上に開いたまま置くことができない状態であった。さらに脱線を続けるが、前期に「文学」の講座で宮沢賢治を取り上げたが、テキストに「ちくま文庫」を採用した。“本物を”というこちらの思いが裏目に出て、歴史的仮名遣いで総スカンをくらってしまった。それをフォローするために考えついたのが挿絵の回覧である。田原由鶴子さんの挿絵をカラー・コピーして、ハードケースに入れて講義と平行して回覧した。スムーズに回覧され、大好評であった。田原さんが挿絵を担当したこの本は借り手が殺到して、夏期休業中に学生の間を回し読みされ、11月になっても返ってこなかった。中旬過ぎて、見覚えのない学生が返しにきた。かなりいろんな所を回っていたらしい。「またいい絵本があったら紹介してください」と言って学生は去っていった。
いろんな出会いに支えられて


 第2点は、ぼくの読み聞かせが、そこそこうまかったのではないかということである。これまで密かにそう思っていたのだが、これで“密かに”ではなくなってしまったが。高校に勤めていた時、長期休業の前などに、時間がとれれば、芥川龍之介、中島敦等の短編や、特に夏休み前には井伏鱒二の『黒い雨』の一部などを読み聞かせていたのを思い出す。あまり反応はなかったが、卒業生が一人、それが楽しみだったと後で語ってくれた。

 第3点目は、レポートを通して学生たちとコミュニケーションがもてたことである。毎時間読み聞かせた童話の簡単なあらすじと質問・感想を書いてもらって、専用のファイルに挟んで提出してもらった。それを自宅に持ち帰って、座敷で番号順に並べてから、一冊ずつ内容をチェックし、3段階に評価して、ゴム印を押し、場合によっては、簡単なコメントを書き、質問や意見を講義用のノートに抜書きし、それをもとに講義の原稿を作成する。ファイルは88冊あるので、この作業をひととおりこなすのに、講義前の2日間はそれに付きっ切りとなった。講義では、みんなの感想や意見を可能な限り紹介し、疑問点に答え、それぞれの童話や絵本についての解釈や読み聞かせの問題点等を解説していった。この講座がうまくいった1番の要因は、学生たちが、ぼくの読み聞かせをよく聞いてくれて、感想等を素直に一生懸命書いてくれたということに尽きるということになるかもしれない。

 第4点目は、いろんな出会いに支えられたということである。ほるぷフォーラムの松本さん、松居友先生の講演、林明子さんの原画展、その他いろんな人たちや本、雑誌、CD、DVDとの出会いに支えられて、“ぼくの読み聞かせ教室”は、やっとサマになったなあ!というのが実感です。みなさん本当にありがとうございました。

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