絵本のちから 過本の可能性
★子育ての現場から★
  「絵本フォーラム」30号・2003.09.10

星の原団地保育園
福岡市早良区・左座キク子園長〜
子どもたちの眼差しに見守られて
子どもたちの現状、家庭の現状

 星の原団地保育園は、星の原団地の中心に位置し、若い核家族を中心にした世帯の多い環境の中、現在194名の子どもたちが通園しています。ここ最近の子どもたちの様子は、夜型で、朝からとても疲れた表情の子どもたちが多く、朝食を食べる暇もなく登園し、保護者の不規則な長時間就労のため、降園も遅い子が増えています。家庭に帰ると、長時間にわたり、テレビ、ビデオ、ゲームなどをして過ごす子どもたちが多いのが現状です。保育園でも、ちょっとした空き時間には、「先生、テレビつけて!」「ビデオつけて!」と言ってくる子どもたち。落ち着かない、話が聞けない、視線を合わさない、すぐにイライラするなどの気になる様子も見られます。保護者との面談をしてみると、気になる子の家庭ほど、会話も少なく、コミュニケーションの時間さえ取れていないことがわかりました。
 このままではいけないと職員間で話し合った結果、家庭の支援につなげていくために、以前から取り組んでいた絵本の読み聞かせについて、保育の中でもっと深めていくことにしました。
 そんな折、松本直美先生の講演を聞かせていただく機会に恵まれました。普段絵本を読んであげることが多い私たちですが、この日ばかりは、松本先生に絵本を読んでいただきました。大人でもこんなに心地よく、いつの間にか絵本の中に自分が吸い込まれていく姿に、目からうろこが落ちるようでした。その後の園内研修にて、絵本の読み聞かせをどのように取り入れていくのか、松本先生のご指導を参考にさせていただきながら、検討し合うことから始めました。また、それと同時に、朝夕の保育時につけていたテレビを消し、保育園では一切、ノーテレビデーとすることを決め、職員の絵本の読み聞かせから1日が始まるようにし、職員の勤務体制も変えて、夕方はたっぷりと戸外遊びを楽しめるように、保育の内容も見直してみました。

少し見えてきた子どもたちの変化

 最初のうちは、「先生、なんでテレビつかんと」「今、マンガがある時間よ」と言ってくる子どもたちがたくさんいました。しかし、日がたつにつれ、1人もテレビのことを口にしなくなり、登園すると自然に本棚のところへやってきて、自分のお気に入りの絵本を見つけ、「先生、これ読んで」と保育士に差し出すようになりました。
 園内で取り組み始め、子どもたちも絵本を読んでもらうことの楽しさが、顔の表情にも出るようになりました。その姿を家庭にも返していくことで、よりいっそう子どもの育ちに深く関わっていくのではないだろうかと思い、保護者研修を催しました。松本先生の読み聞かせと、現実に迫る子育ての危機感を100名の保護者も、最後まで熱心に聞いていました。次の日の連絡ノートには、「早速絵本を読んでみました」「テレビを消したら、子どもとたくさんおしゃべりができました」「自分が小さいころに読んでもらった本を探し出しました」「毎晩絵本を読むことにしました」など、たくさんの感想が寄せられました。その後も、マスメディアから提起される子どもの育ちについての問題や、親子のコミュニケーションについてのプリントを配布するなど、保護者への啓発は続いています。

明日を担う子どもたちのために

 気になる子どもたちの様子は、全て課題がクリアできたわけではありませんが、少しずつ変化が見られるようになりました。絵本が始まると、し〜んと静まり、目は一点を見つめ、最後までよく聞いています。以前は、月刊誌のような本を選んでいた子が、物語の本を求め、長い話にもどんどん入り込んでいく姿が見えます。家庭での子育てがいかに楽しく、大切であるかを、保育園として支援しながら、そのきっかけづくりの一つとして、絵本との出会いを深めていきたい。課題は大きいけれど、私たちを含め、明日を担う子どもたちに、夢を持って邁進しています。(主任保育士・松尾 悦子)

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