えほん育児日記
〜絵本フォーラム第101号(2015年07.10)より〜

大切にしていきたい
地域に伝わる小さな文化遺産

松本 也寿子(絵本講師)

松本 也寿子 絵本講師

 第1期「絵本講師・養成講座」を修了した直後には、数回絵本講師として活動をさせていただきました。が、最近は「おはなしのおばちゃん」がもっぱらです。

 いまは、幼・保育園、小学校、書店など低年齢層を対象としたおはなし会だけではなく、特別養護老人施設や介護施設、社会福祉協議会主催の高齢者サロンなど、高年齢層のところでおはなし会をすることが多くなってきました。

 これは、現在の日本の人口ピラミッドが「つぼ型」となっていることと無関係ではないように思います。「つぼ型」は少子高齢化であることを表しています。高齢化率(総人口に対する65歳以上の高齢者の占める割合)は25・1%。4人に1人は、高齢者です。社会問題としてメディアなどで取り上げられる事が多いので、皆さんもご存知の事でしょう。

 高齢者の中には、介護認定を受けておられる方や介護予備軍の方がいらっしゃいます。 このような方たちのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下を防ぐために利用されているサロンなど、高齢者の集まりにお邪魔しておはなし会をさせていただいています。

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  始めは、サロン運営スタッフも利用されている方も「子どもじゃないのに、おはなし会?」「よみきかせ?」「絵本?」と、「???」だらけですが、終わる頃には自分の子ども時代や子育ての頃など、各人の若い頃とリンクするところがあるようです。なにかを思い出されたり、懐かしく感じるところがあったりするらしく、あとから参加された皆さんからおはなし会の感想だけでなく、よみきかせや絵本に対しての好意的な声をかけていただきます。

  そして、高齢者のなかには認知症を発症しているかたも多くなってきました。

  認知症に対しては、まだ正しく理解をされていないのが現状です。先ごろ、声優の大山のぶ代さんが認知症を公表されて、注目を集めています。これを機会に認知症をはじめとする高齢者の病気だけでなく、高齢者を取り巻く特有の事情について考えるきっかけになればいいなと思います。

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 さて、認知症には様々な症状があり、それぞれケアの方法があります。

 そのひとつに、思い出の品・思い出の曲・思い出話などで脳を活性化させる「回想法」があります。私は認知症ケア専門士ではありませんが、認知症サポーターとして認知症の方の不安を少しでも減らし、その人らしい生活を穏やかに送っていただけるお手伝いと、介護されている方たちも少しの時間ですが、ほっとひといきいれてもらえるように、絵本のよみきかせをさせていただいています。

 プライドの高い高齢者のなかには、「絵本は子どもの読み物(幼稚)なのに、いまさら何で絵本をよんでもらわなければならないのか?」と不快感をあらわにされる方もいらっしゃいます。ところが、絵本の楽しさに気付かれると、おはなし会の日を心待ちにしてくださいます。

 このため、私は、楽しかった記憶を呼び覚ませるような本や家に帰って今日の話題のひとつとして家族に話してもらえるような本など選書には気をつかいます。

  時には、一冊の絵本から思い出話に花が咲き、よみきかせそっちのけで、地域の行事や遊び・食習慣などを教えていただくこともあります。教えていただいた事は、幼・保育園や小学校のおはなし会に行ったときに折に触れて伝えるようにしています。

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 とるに足らないこと・時代遅れなことかもしれませんが、地域に伝わっていたことを途切れさせるのは惜しいと思います。時代の変化とともに、それを「する」「しない」は個人の考えでしょうが、地域の伝統を「知っている」ということが大切だと考えます。

  私は、地域に伝わっている小さな文化遺産を次の世代に引き継ぐ手伝いができる高齢者の方とのよみきかせを続けて行きます。

  これからも養成講座で学んだことを基礎として、学び続けて行きます。

(まつもと・やすこ)

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