こども歳時記

〜絵本フォーラム101号(2015年07.10)より〜

「サルと人と森」

 山へ、川へ、海へと自然の中に子どもたちの声がこだまする季節となりました。楽しい夏休みも目前です。夏休みといえば、ラジオ体操。学校から持ち帰ったアサガオは、いくつ咲いたのかな。毎日熱心にアサガオの記録をつけたり、また、夏の日差しをたっぷり浴び日焼けを競う大会で誇らしげな顔をしていた子どもたちの様子が懐かしく思い出されます。

  自然は、たくさんの事を教えてくれます。私たちは、風の匂い、光の眩さ、そして、木々の葉の揺らぎなど、自然の姿をいつも感じ、意識しているでしょうか。地球温暖化・大地震・火山噴火・土砂災害など昨今の事象に対して、ある幼稚園児が「地球が怒っている!」と話していたのが印象的です。本当にそうだなと思います。さらには、季節毎に色を変えていた木々が伐採され、その跡に道路ができ、里山の風景が一変してきています。

 生物学者本川達雄さんの近著『生物多様性』(中公新書)によりますと、地球上に存在する種は分かっているだけで190万種ですが、毎日5〜50種が絶滅しているそうです。本川さんは、経済至上主義を改め量から質へと「豊かさの物差し」をかえなければ、地球も人間も持たないと警告しています。

 今から100年以上も前、石川啄木が盛岡中学校の校友会雑誌に発表した『林中の譚』には、本川さんと同様の警告とともに、石川啄木の考える人間の生き方が述べられています。この『林中の譚』を原作として生まれた絵本が『サルと人と森』(石川 啄木/著、山本 玲子/訳、鷲見 春佳/絵、NPO法人森びとプロジェクト委員会)です。サルと人との森の中での会話を描いたものですが、現代社会への、いいえ、人間への忠告が冷静に表現されています。≪人間にとって怠慢の歴史だけが日々に進歩している。ほら、人間が自慢する文明の機械というものは、結局、人間をますます怠け者にする悪魔の手ではないか。(中略)人間はいつの時代も木を倒し、山を削り、川を埋めて、平らな道路を作って来た。だが、その道は天国に通ずる道ではなくて、地獄の門に行く道なのだ。≫鋭い指摘だと思います。

  便利はいいけれど、便利さだけを追求すると、考えることを忘れてしまいます。この絵本を見て、地に足をつけて自分の頭で考えなければいけないと改めて感じました。同時に、自然の中でたくさんの生き物が豊かに平和に暮らせる地球が続いていきますようにと思わずにはいられませんでした。福島原発事故でいまだ故郷へ帰ることのできない子どもたちもたくさんいます。本当の「豊かさ」、本当の「幸せ」とは何なのか、考えてみたいですね。 やはり、地球はたくさんの命であふれ、にぎやかな方が良いですね。

(いけだ かずこ)


池田 加津子(絵本講師)絵本講師・池田 加津子

サルと人と森

「サルと人と森」
(NPO法人森びとプロジェクト委員会)

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