道聴塗説

この国は今「戦時」ではないのか!

藤井勇市

■「暗黒の世」の到来

 明日が怖い――。私たちは今、そんな時代を生きているのではないか……。 「戦争法案」(安保法制)が2015年9月19日(午前2時18分)、参院本会議で可決・成立した。賛成は自民、公明、次世代、元気、新党改革の5党である。人びとは、この日を「民主主義が壊れた日」として記憶し続けていくだろう。立憲主義の意味さえ理解しない反知性・安倍暴走政権が起こした愚かなクーデターである。

 最早この国は、法治(立憲)国家から人治(安倍家独裁)国家に変貌したのである。「戦争法案」の成立によって自衛隊は米国の二軍になり、中東や南シナ海、その他の紛争地域へ「助っ人」に行くことになる。――隊員が戦死する。また、他国民を殺傷する――それが現実のものとなるのだ。更に、この国がテロの標的になったことも知っておかなければならない。暗黒の世の到来である。


■ジャーナリズムは使命を放棄

 現下の大手マスコミは、本来ジャーナリズムが持つべき役割・機能(権力の監視・事実の報道)を放棄して、政府の「広報紙」(御用機関)になっている。言わば、単なる「メディア」(媒体・手段)でしかない。ジャーナリズムに求められているのは、紙面に掲載されている「事実」の正確さは当然のことだが、何より重要なことは、「伝えなければいけない情報・事実」が提供されているか、どうかである。そのような観点で言えば、この国にジャーナリズムは存在していない、と言えるのではないか(気骨のある地方紙を除いて)。

 例えば、消費税の「軽減税率」の報道では税制の本質である応能負担の原則や逆進性の問題点は多く言及せず、もっぱら「飲食料品は据え置きで庶民の生活が助かる」などと書き、増税政策を援護していた。背後では新聞の軽減税率適用を求める画策と懇願が見え隠れしていた。その甲斐あってか、新聞も軽減税率の適用を受けることになった(『朝日新聞』15日)。

  また、朝日新聞は過去(2012年8月)に、 消費税増税法案(5%から8%)の国会審議中、当時の民主党・野田佳彦政権に対して「決められない政治」と揶揄し、同法案の推進をしていた(若宮啓文元朝日新聞主筆)前科を持っている。

  軽減税率が実施されても庶民の生活が楽になるわけではない。野菜や魚などの食料品は需要と供給の関係で価格が設定され、軽減税率が適用されても安くなる保証などないのは当たり前のことである。

 軽減税率で潤う(儲かる)のは、消費税を税務署に納めている事業者(軽減税率適用物品を販売する企業)である。特定企業の「補助金」になると指摘する学者もいるが、その声は新聞に届かない。誰が担税者・納税者かも定かでない――「悪魔の税制」(『ちゃんとわかる 消費税』、斉藤貴男/著)は、即刻廃止すべきである――こんな主張を展開する新聞は現れないものか……。

 

■面白い記事(?)を発見した

12月5日毎日・朝日記事から 面白い記事(?)を12月5日、見つけた。『首相動静』(朝日新聞)、『首相日々』(毎日新聞)である。これは取材記事ではなく官邸からの発表モノであろう。どちらも安倍晋三首相の一日の行動内容(出勤から退勤まで)である。

 両紙を見比べたら、気がつくことがある。――7時6分以降の記述である。東京・京橋の日本料理店「京都つゆしゃぶCHIRIRI」に同行した、いつもの「鮨友=すしとも」メンバーの記載がある。朝日新聞から引用してみよう――曽我豪・朝日新聞編集委員、山田孝男・毎日新聞特別編集委員、小田尚・読売新聞論説主幹、石川一郎・日本経済新聞専務、島田敏男・NHK解説副委員長、粕谷賢之・日本テレビメディア戦略局長、田崎史郎・時事通信特別解説委員――の面々である。

  朝日新聞は正直(たぶん)に全員の会社名、氏名を書いているが、毎日新聞の同欄は二社(者)(時事通信の田崎史郎氏、NHKの島田敏男氏)しか載せていない。それも通信と放送だけである。この作為は何なのか。まさか、羞恥心などではあるまい。

  矜持のあるジャーナリストなら、時の権力者の酒池肉林に侍るなど、断じてしない。権力に隷従したニセ・ジャーナリストの姿がここにある。このような人たちを正しい日本語では――権力の走狗――と言うのではないか。欧米の同業者が同じことをしたら市民から猛反発を受け、会社の存続も危うくなるだろう。しかし、これがこの国のメディアの実態である。

 上のような状況を少なくない人たちが、なんの疑問もなくそのまま受け入れているかのように見えることに、私たちはもっと注意を払わなくてはいけないのではないか。

(ふじい・ゆういち)

 

 

前へ | 道聴塗説 | 次へ

(C)2015 絵本フォーラム All Rights Reserved