絵本のちから 過本の可能性

「絵本フォーラム」105号・2016.03.10

『絵本講師・養成講座』を受講して
人の心に灯をともす絵本との出会いを広げたい

山本 弥栄子(芦屋12期)

山本 弥栄子氏 芦屋第12期

 私は、2歳と4歳の子どもを育てる母親です。
子どもたちが1歳を過ぎ、自ら好んで絵本を読んで欲しがる年齢になり、一緒に絵本を読む機会が増えました。私の母は元保育士であり、私が幼少の頃、毎晩寝る前に、兄弟揃って母の近くに寄り添いながら、何度も何度も母から絵本を読んでもらった鮮明な記憶があります。私の絵本好きは、その時の経験が大いにかかわっていると感じます。

  実際に自分が母親になり、母と同じように子どもたちに絵本を読んであげたいと考えていました。しかし、日々仕事で疲れて帰宅し、帰宅後も家事や育児が待っている私には、なかなか落ち着いて、そして余裕をもって絵本に触れることができませんでした。わが子が「絵本読んで」と持ってきても、最初の数ページ読むものの、途中であくびが出たり、眠くて涙が出たり、声が詰まったり、とても「ちゃんと絵本を読んでいる」状況ではありませんでした。次第に子どもが絵本を持ってきても、「今日は読まないよ」「その絵本は明日にしようね」などと言って断るようになりました。そんな状況が続き、わが子とともに絵本を楽しみたいと思っていた夢がどんどんかけ離れていくようで、「もう少し心にゆとりをもって絵本を手に取りたい」と考えるようになりました。

  「絵本のことをもっと深く知りたい」、「知ることによってわが子と絵本を楽しむ時間を作りたい」、というのが私の「絵本講師・養成講座」を受講したもっとも強い動機です。
受講するたびに私の絵本に対する考え方が変化してきました。私には抑揚をつけてエネルギッシュに読む、という「読み聞かせ癖」があります。毎回全力で読むので、ゆったりした親子での絵本の時間として長続きしないのです。
受講の際、同じグループの方から「私も以前はそうだったのよ」というご意見を頂きました。その方が言うには、意識しながら読み聞かせの回を重ねると、少しずつ読み聞かせ方が変化した、というのです。私は「私も訓練をするべきかな……」と感じました。ところが、訓練をしなくても、私の読み聞かせは変化したのです。

 絵本講座を終えて、私自身の心にあたたかいもの、ゆったりしたものを感じて、心に余裕ができたのでしょうか。講座からの帰宅後、息子に読んであげたバージニア・リー・バートンの『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』は、できるだけゆっくり、そして感情を入れないで淡々と静かな声で読んでいたのです。わが子は、いつもと違い、ゆっくりと読む私の読み方に、最初は少し違和感を覚えたようですが、じっと話を聴きながら絵を見入っていました。そして、何度も何度も「この本読んで」と持ってきたのです。読み重ねるほど、機関車の躍動感や動作音、周りの人の機関車への愛情など、ロングセラーになる絵本の魅力を感じた経験でした。

 養成講座でたくさんの講師の先生からお話をお聴きするたびに、私にとっての「絵本」の存在がより深くなっていくのを感じました。どの講師の話も興味深いものでしたが、なかでも森ゆり子理事長の講演について感じたことを書きます。理事長の講義は、とてもやさしい語り口調で、穏やかな雰囲気の中にも、現在、子どもの置かれている状況への、鋭い洞察力と実証データの提示による科学的なものの見方には、尊敬の念を隠せませんでした。「絵本講座」というと、ついつい楽しい絵本の紹介だけに時間を費やしそうですが、その絵本が読み手にどのような効果をもたらすのか、聴講者が納得するデータを揃えることも大切です。

 理事長が講演の中で紹介された松居友氏の言葉、《子どもにお話を語るということは、子どもに人生の航海術を教え、灯台の火を灯してあげることなのです。》『絵本は愛の体験です。』(洋泉社)より。この言葉を胸に抱き、これから絵本講師としての力を付けていきたいと思います。
(やまもと・やえこ)


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