やわらかな春の日差しが嬉しい季節になりましたね。年度の切り替わりのこの時期、新しい世界へ羽ばたいていく子ども達がたくさんいることでしょう。
我が家も、兄妹が中1、小1に進学します。楽しみと不安の入り交じった小さな胸を思うと、我が身を振り返り考えます。この1年、成長を手助けできただろうか、子ども達それぞれのペースを、ゆったりと待ってあげられただろうか……。
「待つ」子育て、という言葉をご存知でしょうか。『子どもへのまなざし』(佐々木正美/著、福音館書店)の中では、このようにあります。《人間の体というのはかならず治るほうにいく、よくなるほうへいこうとするのです。あるいは成長しようとする、発達しようとするのです。〜中略〜 ですから、待つという姿勢ができましたら、もうこれで、人でもなんでも育てることの名人になれると思います。〜中略〜 ひそかに最善をつくして、じっと待っていればいいのです。》この「待つ」ということの、なんと難しいことでしょう。習い事や集団生活の低年齢化が進む昨今、人と比較されること、できるできないの判断を下されることも同じだけ低年齢化していきます。この世に生を受けて2年かそこらで、他人と比較され、優劣をつけられてしまうのです。他人と比較していては、我が子のペースをじっくり待つなど到底できるはずがありません。同じ本の中で著者は、こうも言っています。乳幼児期の育児は、ひとことでいえば、子どもの要求や期待に、できるだけ十分にこたえてあげることです、と。「いつできるかな、いつからできるかな」と、それだけのことでいいのです、とも……。
もっとゆったりと待ってあげていいのではないのでしょうか。人格の基礎をつくる大切な乳幼児期だからこそ、親こそが、ゆったりのんびりとしたペースで、焦らず過ごせるような環境にあってほしいと切に願います。
『だいじょうぶ だいじょうぶ』(いとうひろし/作・絵、講談社)という絵本があります。《おじいちゃんは、ぼくの てを にぎり、おまじないのように つぶやくのでした。「だいじょうぶ だいじょうぶ。」》おじいちゃんは、つぶやくだけではないのですよね。「あぁ、本当にだいじょうぶだった」とぼく自身で気が付くまで、じっと待っているのです。ただ「だいじょうぶ」と言いっぱなしにするでもなく、押し付けるのでもなく、子どものペースで気づきの時がくるのをじっと待っているおじいちゃん。亀の甲より年の劫のなせる業かもしれませんが、子育て中の今こそ見習いたいものです。
木々が芽吹き始めると、桜の開花が待ち遠しくなります。子どもと共に、開花を「待つ」ことを楽しもうと思います。
(なかむら りな)
中村 利奈(絵本講師)
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