えほん育児日記
〜絵本フォーラム第106号(2016年05.10)より〜

頑張れ、保育士の卵たち

 

金澤 栄子(絵本講師)

 

頑張れ、保育士の卵たち

 4年前、保育士の卵の学生へ「こどもと文学(絵本)」の授業を担当してくれないかという依頼を受けた。「保育士の先輩としての経験を伝えてもらえたら……。それが学生にとって一番魅力なんです」とにこやかに声をかけてくださり、好奇心の塊のB型の私らしく申し訳ないくらい軽い気持ちで引き受けてしまった。それからは、驚き、悩み、ため息をつき、落ち込みの連続。4年間はまさに私にとっても学びなおしの日々となったのである(フゥ〜。でも得るものは多かった)。

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 講義は「あなたの絵本体験を語ろう」から始める。しかし、自ら手を挙げ語る学生はほぼいない。進め方の問題かと他の先生方に尋ねると、「今の学生は目立つ事を嫌がるよ」と教えられた。それではとレポートで答えてもらった。

  18歳Mさんは『わたしのワンピース』(にしまき かやこ/えとぶん、こぐま社)を紹介。 

 「キャンパスのように様々に変化してゆくワンピースが何とも可愛いらしく、ページを繰るたびにワクワクドキドキ。物語の文中にちりばめられた《ミシン カタカタ》《ラララン ロロロン》といったリズム感のある軽やかな言葉の響きも心地よく、ふんわり温かな魅力のある絵本です。私はこの絵本を幼児の時におばあちゃんからたくさん読み聞かせしてもらいました。絵本の中にウサギがミシンを使ってワンピースを縫っている場面があります。今、その場面を読み返してみると昔おばあちゃんがミシンを使ってたくさんのものを作ってくれたのを思い出して懐かしい気持ちになり、とても心が温かくなりました」。

 私からは「読んでもらったこと、作ってもらったこと、その思い出があなたに力≠与えてくれますように!! 子どもたちは大切にされたこと、大事に扱われたこと、優しくされたこと、認めてもらえたことで、生きる力を与えられると思います。これからはあなたが、子どもたちに力を与えてくれることを信じています」とメッセージを送りました。

 でも、なぜ自らの言葉で、会話で、語りあえないのか。自己肯定観や他者を認める力の弱さがあるのではないかと、『ええところ』(くすのき しげのり/作、ふるしょう ようこ/絵、学研)、『いいこって どんなこ?』(ジーン・モデシット/文、ロビン・スポワート/絵、もき かずこ/訳、冨山房)、『あなたがだいすき』(鈴木まもる/作、ポプラ社)等を届ける。更に、毎回保育課題絵本を調べ紹介する事と合わせて、たっぷり読み聞かせをする。「絵本は幼い子どものための本」という概念を超え、絵本の力を感じてもらうためである。

  そして「絵本とは何だと思う?」と問うと、
 「何回読んでもらっても飽きない」「読んでもらう時間は最高に楽しい時間」「想像力が膨らむもの」「子どもが大好きで、目をキラキラさせて興味を持つ物」「心が温かくなる」「乳幼児・子どもにとっては、心を豊かにするうえで、大事な時間」「読む絵本によって、子どもの表情が変わって反応を見るのが楽しくって読むのも好きだし、読んでもらうのも大好き」「大人にとっては、懐かしい気持ちを思い出させてくれるような、ほっこりさせてくれるような力がある」。
  そんな声を届けてくれた時は「18歳、捨てたもんじゃない。さすが保育士の卵!! 任せたよ」である。

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 今、保育士として働き続けることはとても厳しい。保育士資格が無くても良い、なんて声まである。

 今の子どもたちが置かれている現状を把握する中で絵本の役割を理解し、子どもの未来に向けての生き方、可能性に思いを馳せ、作品の選択眼を養おうと共に学びあった600名の未来の保育士・教師たちが、子どもたちとその周りにいる大人たちに絵本の力を届けられる環境がいつまでも続きますよう、切に切に願わずにはいられない。


(かなざわ・ひでこ)
 

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